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2017年11月19日

血中におけるコレステロールや中性脂肪の存在

コレステロールや中性脂肪などの脂質は水に不溶性のためアポ蛋白と結合 して、リポ蛋白の形で血液中に存在しています。
つまり、中性脂肪もコレステロールも血液中をそのまま単独で循環しているわけでは有りません。

リポ蛋白

リポ蛋白は比重や粒子の大きさによって以下のように分類されています。
比重により、
1)CMカイロミクロン
2)VLDL(超低比重リポ蛋白)
3)IDL (中間比重リポ蛋白) VLDLレムナントとほぼ同意語
4)LDL(低比重リポ蛋白)
5)HDL(高比重リポ蛋白)
に分類されています。

一方粒子の大きさはこの順に小さくなります。

コレステロール値の計算

これらのリポ蛋白中に含まれているコレステロールを表す時は、各リポ蛋白の後にコレステロールをつけて呼びます。
例えば、LDLコレステロール(LDL-C)のように。

血液検査ではリポ蛋白に含まれるコレステロール量を総コレステロール値(TC値)
リポ蛋白に含まれる中性脂肪を中性脂肪値(TG値)として測定しています。
同じく善玉コレステロール(HDL-C) と 悪玉コレステロール(LDL-C)があります。

TC=HDL-C+LDL-C+VLDL-Cが概ね成り立ちます。
VLDL中のコレステロールと中性脂肪の比率からVLCL-C=1/5TGで計算 されます。
厳密にはレムナント-Cもこの式に入りますが、ここではVLDLに含まれています。

註)欧米においては
LDL-C=TC-HDL-C-1/5TGというフリードバルドの式を用いる事が、ゴールドスタンダードとなっていますが、日本では特に健診診断においてはLDL-C値が直接法で求められており、医師仲間において混乱の原因となっています。
フリードバルドの式は空腹時採血という条件があります。ただしTG値が400以上では使えません。
因みに食後採血の場合だとVLDL中のTG比率が増えてくる為にこの式は使えません。
糖質やアルコールはVLDL産生を亢進する傾向がある事も分かっています。

VLDLやLDLについて

リポ蛋白の主な仕事は中性脂肪とコレステロールの運搬です。
ざっくりとした言い方をするとVLDVは肝臓でつくられ末梢組織への中性脂肪の運搬を行う。
LDLは肝臓で作られたコレステロールを末梢組織へ運搬する。
HDL(善玉リポ蛋白)は小腸や肝臓で作られ更にはカイロミクロンやVLDLからの代謝からも生成されますがそれらの関係は複雑です。

A)中性脂肪(TG)供給

i)カイロミクロン(食餌性、外因性脂質と呼ばれてきます)
ii)VLDL (内因性脂質とよばれ肝臓で作られます)
この両者は中性脂肪を豊富に含有しているためTGリッチリポ蛋白と呼ばれています。

この両者は血管内皮細胞にあるLPLにより分解された後、肝臓を始め脂肪細胞や筋肉など各組織に中性脂肪を供給します。

中性脂肪は動脈硬化巣には存在しませんが、RLP-CやsdLDL-Cとの関係から数ヶ月も空腹採血で150以上が続くときは何らかの対策を取る事をお勧めします。

TG値を良くするには薬剤治療よりも炭水化物過剰摂取を控え、レジスタンスまたは有酸素運動のいずれかの運動を取り入れることを優先する事が大事であると考えます。

臨床の種々なデータから良好なTG値コントロールとしては空腹で80以下食後でも150以下が良さそうです。

B)コレステロールの流れ

肝臓において産生されたVLDLは→VLDLレムナント(IDL)→LDLへと代謝され肝臓も含む各組織にあるLDL受容体を介してLDL-Cは各組織にコレステローが取り込まれます。
つまりLDLはコレステロールの運搬屋の顔を持っています。
LDL-Cは悪玉コレステロールと呼ばれていますが、LDL-Cは各組織における細胞形成 及び種々のホルモン合成において大事な役割を担っています。
LDL-Cは体にとって欠かすことはできません。適量は必要なのです。

動脈硬化惹起に働くのは

動脈硬化惹起に働くのは、つまり動脈硬化巣のplaqueとして存在するのはsdLDL-C (small dense LDL-C)、RLP-C (レムナントコレステロール)の両者です。

LDL-C(悪玉コレステロール)でもTG(中性脂肪)でもありません。
しかしLDL-CとsdLDL-C、TGとRLP-Cとは関係性が深いことは容易に想定されます。
LDL-Cが高くても心筋梗塞を起こさない人も正常範囲内でも起こす人もいます。
動脈硬化に関してのLDL-Cの豊富なデータはありますが、実際に動脈硬化巣のplaquetoとして存在しているものはLDL-Cではありません。中性脂肪でもありません。
Lipid1.png

C)sdLDL-C(超悪玉コレステロール)

LDL-CがLPLなどにより更に小型化したもの。
これは各組織にあるLDL受容体との親和性がない為に、血中に長く停滞してしまいます。
その間に酸化作用を受けた後でマクロファージに貪食され血管内皮のplaqueになってしまいます。
sdLDL-Cは非常に大事な検査なのですが、未だに、一部の研究室レベルでしか測定できていません。
LDL-Cの大きさを間接的に示す検査としてアポリポ蛋白Bという項目があります。
アポリポ蛋白B(ApoB)90mg/dl未満が正常範囲です。
アポリポ蛋白の数値が大きい程LDLが小型化(悪玉化の目安)といわれています。しかしあまり多くの先生方は検査されていないのが現状でしょう。
私自身も殆ど日常的には測定していません。

Lipid2.png


D)RLP-C(レムナントコレステロール)

i)広義ののレムナント
TGリッチリポ蛋白がLPLで分解されて中性脂肪の量が減量したものをレムナントと総称します。
カイロミクロン→カイロミクロンレムナント
VLDL→VLDLレムナント

これらのレムナントの多くは肝臓表面にあるVLDL受容体により素早く肝臓に取り込まれて代謝されてしまいます。

ii)狭義のレムナント
肝臓ですぐに代謝されずに血液中に停滞し続ける為にマクロファージの餌食となり動脈硬化の大きな要因となるものです。
狭義のカイロミクロンレムナント及びVLDLレムナント とよばれます。
これら狭義のレムナント増加はコントロール不良の糖尿病、運動不足、肥満及び急激な体重増加などが要因となるようです。

RLP-C測定は三ヶ月に一度なら保険が効きます

RLP-C測定は三ヶ月に一度なら保険が効きます。
但し現行のRLP-C測定が狭義のレムナントを正確には評価出来ていないという専門家の意見もあります。
現時点ではTGで間接的にRLP-Cを評価していくといいと考えます。TGと同様食後変化しています。
食後の血液中の中性脂肪が異常にふえることを高脂血症と呼びます。
空腹時採血ではVLDLレムナントを評価し、この高値は病的意義は高いと考えます。
食後ではカイロミクロンレムナント値が上乗せされます。
食後採血での高値の評価は各症例に於いての原因を検索する必要があります。
註)RLP-Cが異常高値の場合には大型のレムナントコレステロールを見ている可能性もあり、それらのレムナントコレステロールは血管内皮にまで到達しない可能性があり、動脈硬化とは関係しない事も考えられます。解釈は慎重にしないといけません。
前日の飲酒を禁止しさらに空腹採血に徹する必要があると考えています。
アポ蛋白B48を空腹時採血すると食後の高中性脂肪の評価ができるとの意見もあります。 空腹採血で中性脂肪が正常範囲内でも、アポ蛋白B48が高値は要注意です。


註)最近non-HDL-Cという値がむしろLDL-Cよりも動脈硬化に関連するといわれ注目されています。
non-HDL-C=TC-HDL-Cで求めます。LDL-C値が空腹採血での評価に対して食後採血で求めます。 その為にNon-HDL-CはLDL-CのみでなくsdLDL-CやRLP-Cなどの影響及び食後の変化も反映するのではないかといわれています。
しかし現時点までにはLDL-C値の動脈硬化に関連するデータは世界中に豊富にあります。
今後はnon-HDL-Cのデータが積み重ねられることは想像に難くありません。

健康診断を受けた方はコレステロール関係の項目では是非以下の項目に注目してください。

TCを測定していないところがありますが、TC値は決して無視してはいけない検査です。

1)non-HDL-C170以上
2)TG150~200以上
3)HDL-C40以下
のいずれかが
数ヶ月続く様な人は放置しないで対応策を取ることをお勧めします。

肥満者
糖尿病
運動不足
急に、体重が増えてしまった方(3ヶ月で3~6kg以上とか)の方に該当する人が多いと思われます。
勿論、上記に当てはまらなくても上記のデータに異常のある方は医療機関で相談してください。何事も先手必勝。転ばぬ先の杖です。

これらの方は動脈硬化の要因である
RLP-CやsdLDLが高値であることが想定されます。
RLP-CはTGリッチリポ蛋白だからTG値が高い事は理解しやすいですが、
sdLDL中のTG含有量は少ないですが高TG血症ではsdLDL-Cが増えることが多いという現実があるようです。

対応策として

1)運動や蛋白摂取をきちんと指導して しっかりして筋肉をつける事が大変重要です。患者さんを啓蒙してまずは薬剤に頼らない試みが優先されるべきです。
2)炭水化物や脂肪やアルコールの過剰摂取(エタノール5g/日以上)を避ける。ただし魚などのオメガ3は別。
3)スタチン以外にゼチーア、フィブラート系、オメガ3のエパデール、ロトリガ
4) 糖尿病があればSGLT2阻害剤、チアゾリン系、DPP-4阻害剤も考える。

運動に関連しては

毎日の自宅での運動を1~2分からでも習慣つける。1~2分ならいつでも繰り返す事ができます。一万歩以上歩いたり、30分以上歩いたり運動する事などは多くの人には苦痛だと思います。
できる事からやることです。
トイレをした後に必ず1~2分足腰をゆっくり息を吐きながら踏ん張る動作。
日常生活の動作の中にレジスタンス運動を組み入れる。
気がついた時にゆっくり息を吐きながら1~2分お腹をへこまし続けるなど。
ロングブレスの歩きながらの応用。
各動作は1~2分程度からでよく、無理しない。疲れたらやめること。一度に根性で長い時間やり続けることはないと思います。例えば10~12分続けなくても、1~2分を1日のうちに10回行うといいでしょう。

治療開始した場合にはnon-HDLはこ150以下にコントロールします。
糖尿病のある方は130以下を目指します。
何故なら、心筋梗塞などの虚血性心疾患を起こしていなくても糖尿病があると言うだけで、虚血性心疾患の既往のある非糖尿病患者さんの二次予防の基準まで厳しくコントロールすべきであると言われているからです。ガイドラインには150以下となってますが、私は130以下を勧めています。虚血性心疾患の既往のある方は130以下をしっかりキープするようにアドバイスしています。

目標値

一回の検査で判定しないで何回かの採血でその人の平均を想定する必要があります。
採血時の食事や前日の飲酒量。日常生活の運動の変化で微妙にデータが変化します。
点でなく線での評価が大事です。

1)non-HDL-C150~130以下
2)TG 100~150以下(空腹、食後に拘らず)
3)HDL-C 40以上

参考)Lp(a)も動脈硬化に関連するとされてますが、臨床上頻度は高くなくここでは名前だけ挙げておきます。

LDLの基準値などに関しては、主治医や成書もしくはインターネットで詳しいことはお調べください。

LPL :リポ蛋白リパーゼ 脂肪細胞や筋肉などの毛細血管内皮細胞に存在
HTGL :肝性トリグリセリドリパーゼ

以下の検査の単位 mg/dLです。
LDL-C :悪玉コレステロール
sdLDL-C :超悪玉コレステロール
RLP-C :レムナントリポ蛋白コレステロール
HDL-C :善玉コレステロール
TG :中性脂肪
non-HDL-C :非善玉コレステロール

2017年11月12日

動脈硬化で倒れないために

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トランス脂肪酸

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脳卒中の分類について

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尿で動脈硬化をみつける検査

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血液で動脈硬化をみつける検査

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血液で心臓の負担をみつける検査

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血管病変(動脈硬化)をみつける検査

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総括

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2017年10月20日

健康寿命とは

健康寿命とは難しい言い方をすると日常的もしくは継続的な医療や介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間のことです。
この健康寿命を延ばして、ピンピンころり、が誰もが理想とするところでしょう。

不幸にも病気で倒れてしまって要介護状態になってしまうこともあるでしょう。しかし病気で倒れたわけではなく、単に加齢とともにだんだん気力や体力が低下してしまって、ついには要介護状態に陥ってしまうケースもかなりの数に上ります。
しかし、このことをできる限り予防しピンピンころりをめざす社会を築くためには社会全体で取り組む必要があります。高齢化社会に直面している日本でいかに健康寿命を延ばして行くかは喫緊の課題です。

高齢化社会において健康寿命に大きく影響する疾患としてここでは
1)サルコペニア
2)アルツハイマー型痴呆
3)骨粗鬆症
の三つをざっくりとその代表として取り上げます。

現状ではこれらの状態に対する医薬品が果たせる役割はかなり限定的です。
これから述べていくことの理解においてマイオカインという言葉を記憶しておいて下さい。

マイオカインとは

マイオカインとは、筋肉から分泌されるホルモンの総称です。多くの種類があり、糖尿病や動脈硬化それに認知症などにもいい影響があるとの動物実験での報告があるようです。運動して筋肉をしっかり刺激すると筋肉から体にいいとされるいろんな種類のホルモンことが出てくるようです。
人における上述の三つの状態の関係性はマイオカインをイメージすると理解しやすくなります。

長年臨床に携わっている開業医の立場から高齢化社会に対して今医療に何が望まれ、また一方で何が医療の限界であるか、そして現時点において具体的に何をすればいいかについて考えて見たいと思います。

高血圧、糖尿病、脂質異常、心筋梗塞、脳卒中、各種がん、先天性疾患、代謝疾患などなど、いまの日本の保険制度のもとにおいて治療されている疾病についての治療方法について述べることは本稿の趣旨ではありません。

1)サルコペニアについて

サルコペニアについて語るときは、フレイルという言葉の説明をしておいた方が理解しやすいと思います。

フレイルとは英語でFrailty虚弱のことです。
1)身体的フレイル
2)心理的/認知的フレイル
3)社会的フレイル
と分けられると思います。

1)身体的フレイルはサルコペニアともいわれます。
サルコ(筋肉)ペニア(減少)が語源です。このサルコペニアの中でも色んな分け方があります 。
A)原発性サルコペニア 加齢が主な原因
B)二次性サルコペニア 医療現場での治療が不可欠な疾患による筋力低下
 例えば 脳卒中や進行癌、極端な低栄養状態などなど。
ここで取り上げるサルコペニアは原発性つまり加齢に限った話と受け止めて下さい。
2)や3)の他のフレイルに関しては精神面や経済面などが複雑に絡みますので私には述べる資格も知識もありません。

ここからは原発性サルコペニアのことをサルコペニアとよびます。つまり高齢化社会では避けて通れない単に老化による筋力低下のことです。 これにいかに抵抗するかが大事なことです。極端な例かも知れませんが、スキーの三浦氏のように歳に負けないで頑張れる模範があることを励みにして下さい。

2)アルツハイマー型認知症

これ以外に認知症に関してレビー小体認知症、ピック病など細かな分類はありますが、多くの認知症は診断がつけられたとしてもその治療方法についてはそのほとんどが満足できていないのが実情ですので、ここでは細かく分類しないでアルツハイマー型認知症をとりあげます。当然開業医としては治療可能な認知症を見落とさない努力が求められます。
それについては後述します。

3)骨粗鬆症

1)原発性骨粗鬆症 加齢によるもの
2)二次性骨粗鬆症 各種疾患やその治療薬の副作用に起因するもの
という分類はありますが、治療方法はさほど変わりません。

アルツハイマー型認知症の早期発見の意義についての現状(物忘れ外来の意義)

物忘れ外来などで軽度認知機能障害(MCI)と診断されてからアルツハイマー病を予防するために色んな試みがなされています。

現時点での見解としては、ビタミンB群、葉酸、ビタミンC、イチョウの葉、βカロチンなど巷で色々言われ宣伝されていますが、いずれの投与も統計上効果なしと判断されています。
更には、現在治療として行われている降圧薬、糖尿病薬などの医薬品による各疾患の治療を施してもこと認知症予防効果に関してはいずれも認められなかったと報告されました。
つまり現在の医療では早期認知症の診断をつけたとしても薬だけではまだアルツハイマー型認知症発症予防はできない。という見解です。もちん自分に合っていて続けたいという健康食品があればそれを否定するものではありません。むしろそのような健康食品や新薬に期待している一人でもあります。
私は個人的には患者さんや家族の方が試してみたいという何か健康食品などがあれば自己責任において三ヶ月試してみてくださいとアドバイスしています。

その一方で、脳トレーニングにはやや効果があったようです。しかし最も効果があったものは運動であったという結果でした。それは私にとって意外でもありまた当たり前でもある結果でした。マイオカインがその役割を果たしたのでしょう。
運動に関しては今の所、有酸素運動がいいかレジスタンス運動がいいかは判断できないとの見解のようです。どちらでも自分のペースで行うことがいいでしょう。どうも運動し筋力を落とさない日頃の努力が年を重ねれば重ねるほど大事であることは確かな事のようです。

治療可能な認知症

治療可能な認知症としては
1)正常圧水頭症、
2)慢性硬膜下血腫、
3)脳腫瘍
4)甲状腺機能低下症
5)アルコール症
6)脱水
7)ビタミン欠乏症
8)うつ病や不眠、降圧薬など種々の薬による副作用
9)その他
が考えられます

開業医でも脳MRI検査機関とうまく連携できれば前3疾患については除外診断出来ます。うつ病や薬の副作用の心配がある際には専門機関を紹介するといいと思います。それ以外の原因については患者さんやその家族からの情報をきちんと取ることによって診断はつくと考えられます。

上記を除外できた認知症のほとんどのケースでは現在のところ投薬のみに頼る医療機関では治療効果は期待薄です。私はきちんとした筋力面のリハビリが行われる施設に一縷の希望を持っています。
脳トレやコミュニケーションの場も勿論必要だと思います。現状のリハビリ環境では一部の機関を除いて人手不足のせいかあまり効果が上がっていないように私は感じています。
国主導でしっかりとした質の良いリハビリのプロを多く雇える予算がつくことに期待しています。

骨粗鬆症に関して

骨粗鬆症治療には種々の薬があります。
ざっくりというと「骨の新生を促す」「骨が溶けるのを防ぐ」薬がいろいろ発売されています。しかし薬だけに頼っていては効果は半減です。患者さんにも協力してもらわなければ、薬の効果も半減です。

1)ぴょんぴょん体操 1~2分間両手を挙げながらジャンプを繰り返す
2)かかと落とし運動 リズミカルに両かかとを繰り返し床につける

過重負荷を患者さんに毎日行ってもらうことがとても大事なことです。
過重負荷については後述します。
筋力アップは骨粗鬆症にも影響があります。筋肉と骨はくっついていて相互関係がある事は誰もが容易に理解できることだと思います。患者さん自身も努力することが必要です。患者さんの中には病院の薬で何でもなんとかなると誤解されている方は多いと思います。その誤解を解いて具体的な協力方法を理解していただき患者さんにも協力してもらう事が必要です。化学の発展により特効薬ができる事は誰もが望むところでしょうが、それらは研究者に任せておくしかありません。

サルコペニアに対して

筋力アップするには
1)運動
2)栄養面
両面で考える必要があります。

介入の時期について
日本人では色々な報告から判断すると70歳を超えるあたりから筋力低下が進んでくるようです。
わたしは、サルコペニア健診と名付けて70歳から実施するといいと考えています。チェック項目についてはいろんな意見があろうかと思いますが煩雑化しない為に握力と歩行速度を中心にさらにはアンケート調査に基づいて筋力をスクリーニングすればいいと思います。
この健診で異常と判定された場合、骨粗鬆症やアルツハイマー型認知症の発生リスクも想定されるため、国を挙げての対応が望まれます。

オーラルフレイル

オーラルフレイルという言葉があります。口腔内サルコペニアなどともいわれます。
歯科領域の協力は欠かせません。口腔内の管理は種々の疾患予防には欠かせません。
ある程度硬いものが噛めることが基本です。しっかり歯科領域を管理しないと咀嚼力の低下や誤嚥に繋がり、ひいてはさらには深刻な病気にも繋がるということは火を見るより明らかです。

笛の普及について

トランペットのようなものなら、肺機能にもいいし呼吸筋や腹筋も鍛えられるということは容易に想像がつくと思いますが、多くの方に普及するという点でいうと現実的ではありません。

そのために私は
1)口腔内サルコペニア、
2)呼吸筋サルコペニア
と呼んで簡単な器具をうまく使って鍛えることを推奨しています。

それにはペンダント式の笛が良いと思っています。音の出ない笛をペンダントにすることにより身近に用意して事あるごとに吹く行為を繰り返し行うことがこれらの予防につながると思っています。高齢者の方に普及すると絶対いいと考えています。

加圧ベルト(下半身用)

高齢者はまず下半身を鍛えることを勧めます。若者は上半身の筋肉誇示に加圧ベルトを利用するようですが、簡易な下半身用の加圧ベルトのようなものがあるといいと考えます。

レジスタンス運動

1~2分ですむレジスタンス運動をおススメします。場所も何処でも構いません。

a)両足を大きく開いて腰をできるかぎり落とします。そこからゆっくり息を吐きながら約20秒かけて立ち上がります。これを3回で1セットとします。これを1~2セットおこなって下さい。
b)ウォリアーズのポーズも同様です。
c)トイレから出る度に同じくゆっくり息を吐きながら近くの壁を下半身に意識をおきながら腰をいれて20秒間おします。これも3回で1セットとします。

レジスタンス運動は場所や時間を選びません。

有酸素運動

時間があるときやリフレッシュには有酸素運動も勿論大事な運動です。レジスタンス運動や有酸素運動のどちらでも構いません。とにかく運動を習慣つけることが大事です。
アンクルウェイト スキーの三浦氏の話は有名です。
1)大股歩き
2)速足
ゆっくりのんびり歩くことは精神的にはいいでしょうが筋力維持となると?です。

上は自分でできる運動ですが、程度によってはまたは一人ではできない方にはその道のスペシャリストに委ねる必要があります。
ここには国を挙げて予算を取って欲しいと考えています。ボランテイアといえば聞こえはいいですがそこに甘えて経済的メリットを担保しないと続かないと思います。

栄養面

サルコペニア、アルツハイマー型認知症および骨粗鬆症に共通して言えることです。
以下にいくつかの栄養面での報告があるものをあげてみます。

ビタミンDの重要性。
ビタミンDについては骨粗鬆症、サルコペニアのみならずアルツハイマー型認知症との関連が言われています。これらの疾患においてはビタミンD濃度の低下が言われています。25(OH)D濃度つまり25-ヒドロキシビタミンD濃度については日本でやっと保険適応になったようです。海外ではかなり研究が進んでいます。

きちんとたんぱく質を取りましょう。
たんぱく質1.2~2g/kg/日はとるようにしましょう。
60kgのひとなら72~120g/日、カロリーなら288~480キロカロリー/日です。

ビーフジャーキー、マグロジャーキー、さきいか、小魚入りナッツ
などは蛋白が豊富でかつ歯ごたえも良くサルコペニア予防にはうってつけと思います。

アミノ酸分岐型アミノ酸で特にロイシンが必要です
ロイシンが筋たんぱく質合成シグナルに関わるそうです。

カルニチン

骨格筋におけるエネルギー産生に関わります。年齢とともに低下することが分かっています。これの一定量の補給はサルコペニアには有効という報告があります。しかし効果がある反面高価であることが問題です。一方でカルニチンが含まれている健康食品はありますが、その量は少しは含まれている程度のことがありますので気をつけて下さい。一般的に医薬品として発売されている薬品はその効果を人で確かめられているので保険適応になります。健康食品はその成分が入っていれば記載されます。人での確固たる効果については問われていません。健康食品がダメとはいいませんが自己責任で求め下さい。

漢方薬

高齢者の食欲不振には西洋薬も悪くありませんが、漢方薬をうまく使いこなすとすごく良いという印象をもっています。検査による数値では異常を認めないにもかかわらず、易疲労感や体力低下を訴える方にも漢方薬が効果を発揮することをよく経験します。

漢方の使い分け、六君子湯、補中益気湯、人参養栄湯、十全大補湯、八味地黄丸などそれ以外にもトライするといいものはいっぱいあります。

DHEAこれは日本では個人輸入するしかありません。効果のほどは個人が決めるしかありません。
クレアチンを投与する試みもあるようです。

メトグルコ

糖尿病のひとではメトグルコ服用者の方が筋力が保たれるといういい報告もあります。よほど腎機能が悪くない限り、つまりクレアチニンクレアランスが30以上なら少量でも使うと良いでしょう
栄養失調状態を放置しないことです。

糖原性アミノ酸

グリコーゲンが枯渇したときグルコースを維持するため に筋肉が壊れて出てくるものをいいます、行き過ぎの糖質制限には要注意です。

栄養と運動が重要不可欠

本人の努力ときちんとした栄養指導がこれからの課題です。だからこそいろんな分野の協力が必要なのです。

評価方法について

認知機能の改善の評価について
長谷川式など色々な評価法が言われています。しかし私は個人的には患者さんの家族や介護支援されている方の肌感覚での満足度の評価の方がわかりやすいと思っています。もしくは介護度の変化で評価する事が現実的であると思います。

筋力の評価について
あくまでも個人の変化で判断することをお勧めします。他人と比較するものではありません。
握力計による数値の変化、歩行スピードの改善

タニタやオムロンなどの体重計

タニタやオムロンなどの体重測定器で体重や筋肉量、骨量および脂肪量が簡易表示されます。

1)コストが安く多くの人が利用できる点
2)個人の評価はあくまでも個人の各項目のデータの変化率で見ることが一番自然です。
筋肉量や骨量の増加、脂肪量の減少が良いサインでしょう
筋力と筋肉量は厳密には異なりますが、個人での変化を見るのですから筋肉量の変化を見ればいいと考えます。

上記のような体重計を利用して自分独自のデータの推移を見るようにしてください。

註)一方大学などの研究機関や一部の検診センターではCTを利用して、数多くの動脈硬化のリスクの統計から内臓脂肪面積が100㎠以上を要注意としています。私はこの絶対値評価よりも個々人の体重や筋肉量などの変化率を治療の評価にしたいと思っています。

例えば、175cm55kgでずっといた人が、結婚を機に半年で60kgになって脂肪肝になったというような症例をたまに経験することがあります。175cm80kgで体型維持しており脂肪肝のない人のような例も少なからず経験します。
BMIで評価するとこの2症例は?ですよね。統計的に処理するということは、総論なのです。現場を見ている医者の端くれとしては個々人の結果である各論を優先しています。話は脱線しますが大病院のデータは総論が中心です。私は総論を参考にしますが、鵜呑みにはしません。何故なら目の前の患者さんは上記症例のように一人一人各論だからなのです。

CAVI

これは血管年齢の際の指標ですが、認知機能、骨格筋量との正の相関がありそうです。
主治医に相談して測定してもらって下さい。
半年に一回くらいの頻度で測定されることをお勧めします。

国によるみんなに行き渡るシステムづくりが急務

製薬会社は我々医師にとって貴重な情報や学会活動、研究面のサポートをしてくれます。個人的に私は東京にいることも手伝っていろんな勉強会での情報を得る機会に恵まれています。以前出張の形で地方勤務を長くした経験からその情報量の豊かさは何者にも変えがたいと思っています。でも当たり前のことですが製薬会社としてもきちんとした営利活動の一環での協力です。

国民全員に関わるサルコペニア、骨粗鬆症、アルツハイマー型認知症は医者だけの力では微々たる物です。国によるみんなに行き渡るシステムづくりが急務です。

繰り返しますが筋力低下いわゆるサルコペニアとアルツハイマー型認知症との関連についてはほぼ常識となってきています。

2017年10月 1日

あなたは自分が糖尿病ではないと自信を持って答えられますか?

先ずは、あなたは自分が糖尿病ではないと自信を持って答えられますか?
血糖値は空腹と食後では時々刻々と変化しているということを知っていますか?
空腹時の血糖値や食後3時間以上経った血糖値が正常範囲内だとしても糖尿病ではないとはいえません。

糖尿病の早期診断のためには下記の組み合わせがお勧めです。
1) 75gブドウ糖負荷試験(これで糖尿病の診断を行うことが教科書的には王道)
2)HbA1cが6.5以上(NGSP)
3)食後1~2時間以内の血糖200mg/dl以上(血糖値がピークの時間帯です)
4)食後1~2時間以内の尿糖陽性
5)早朝空腹時血糖が126mg/dl以上
私の実際の診療では2)~5)の検査を参考にしています。

註)i)食後過血糖を評価する際には摂取した炭水化物量を患者さんから聞き取る必要があります。もし食後だとしても患者さんが炭水化物をほとんど摂取していなければあまり血糖値は上がりません。いつも通りの食事をして来るように指示してピーク時の血糖値を測定することが大切です。また、複数回検査すると良いでしょう。
ii)多くの人では血糖値が大体160mg/dlを超えたあたりから尿糖が出現します。
iii)腎性糖尿といって血糖値が正常範囲内にあるにも関わらず、尿糖が陽性となる方が数%存在しますので注意が必要です。
iv)正常な方の多くは血糖値が空腹から食後にかけて80~140mg/dlの範囲で推移しているため原則としてどの時間帯でも尿糖は陰性です。

註)炭水化物=糖質+食物繊維ですが、厳密に区別しないで書かれてることが多いようです。また、糖質には、ブドウ糖、果糖など色々ありますが実際のところではこの二つくらい知っておく程度で良いと思います。

血糖値変動の指標について

GI値(グリセミックインデックス値):炭水化物の質を評価
GL値(グリセミックロード値):炭水化物の量と質の評価
75gブドウ糖負荷試験及びテストミール食負荷試験:炭水化物の量の評価

脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンなどは大事な栄養素であることはいうまでもありませんが、血糖変動に直接影響を与えているのは炭水化物であり、炭水化物量に基づいて上の三つの検査が行われていることを銘記しておいて下さい。

GI値について

GI値とは基準食としてブドウ糖を選び、ブドウ糖と同じ炭水化物含有量になるようにした食品の食後血糖に及ぼす変化をブドウ糖との比率で表わした数値です。

註)炭水化物の質とは、同じ量の炭水化物でもその質によって血糖変動に与える影響が異なると考えらます。私はそのことを炭水化物の質と呼びます。

GI値は目的の食品の炭水化物の質を表わしていますが、量は表わしていない事を銘記しておいて下さい。GI値の求め方は各研究機関によって異なりますので注意が必要です。例えば、基準食としてブドウ糖を用いることが多いですが、ブドウ糖以外に白米や食パンを基準食とし GI値を求めている研究機関もあるようです。更には、同じ基準食(例えばブドウ糖)を使った報告でも報告者によって数値が微妙に異なりますので、そんなものなんだと受け止めてください。何故なら、いずれの研究機関も正常人を被験者として選んでいますが、人が違えば測定値にある程度の違いが生じるのは当然のことです。

註)GI値を求める際の被検者は正常人の方々であり糖尿病患者さんではないことを覚えておいて下さい。それとGI値と後述するGL値についてもいえることですが、どちらの検査値も食物単品摂取における血糖変動で求められており、実際の食事のようにいくつかの食材を同時に摂取しているわけではありません。これらの値は血糖値を評価する際の参考程度に留めておいて下さい。

ここでは代表的なGI値の求め方について説明いたします。
GI値とは、目的の食品中に含まれる炭水化物量が50gになるまでにした量を摂取した際の血糖上昇の度合いを基準食である50gブドウ糖(グルコース)を100とした場合の相対値で表わされています。
もっと具体的にいえば食品摂取後の血糖値の時間変化をグラフに描き、その曲線が描く面積と基準食による面積との比率をGI値としています。

GI値の求め方

GI.png

引用:http://www.gikenkyukai.com/protocol.html

註)ここでブドウ糖50gを基準としている点についてその歴史を振り返ってみます。現在では75gブドウ糖負荷試験により糖尿病の診断をつける試みがひとつのスタンダードになっています。しかし、それ以前には50gブドウ糖負荷試験を試みていた歴史があります。恐らく50gブドウ糖負荷だと確かに血糖は変動すると考えられた歴史によるものだと考えます。そのためGI値を求める基準食として50gブドウ糖が採用されたと理解しています。

しかし、糖尿病の診断のためには、50gブドウ糖負荷だと糖尿病の方と正常の方における血糖変動に有意差がつきにくかった為に現在の75gブドウ糖負荷試験に変わったと思います。

一方で、一度の摂食の合計が25gブドウ糖ぐらい以下では血糖変動にさしたる影響がこないと私は判断しております。

報告者によっては微妙に違いがありますが、一人前の白米150gの炭水化物量約60gは後述するGI値を考慮するとブドウ糖換算で約50gとなります。いってみれば白米一人前は50gブドウ糖負荷試験のようなものだともいえるでしょう。

GI値が高いとか低いという言葉が独り歩きしていますが、GI値が参考になるのは目的の食品中の炭水化物量が25~50gとなるまでその食品を摂取することに日常生活において違和感がない場合です。計算上高GI値の食品の場合でもその食品中の炭水化物量が極端に少ない場合は血糖変動に影響しません。

いくつか例を挙げて説明しましょう

スイカを例にして見ましょう。
スイカ約220g中に炭水化物は約20g含まれるというデータを採用してスイカのGI値を求めるとします。するとスイカに含まれる炭水化物を50gとするために約550gのスイカを食べるとこということになります。

肉類はどうでしょう。
肉類はほとんどがたんぱく質であり、炭水化物はごくごく少量しか含まれていません。肉類から50gの炭水化物を摂取するためには数十キロの肉類をとらないとGI値の計算はできません。たんぱく質の多い食品のGI値を調べることは現実的ではないことがお分かりでしょう。このことは脂質の多い食品についても同じことがいえます。

野菜はどうでしょう。
多くの野菜は現実問題として上述の理由で炭水化物量ひいてはGI値を気にかける必要はないと思います。ただし、野菜ジュースとした場合でも血糖変動に影響するほどの量は一度には飲めないと考えています。野菜の中でもGI値が高い代表のジャガイモ、ニンジン、サツマイモはどうでしょうか。
ジャガイモ約110g
ニンジン 約200g
さつまいも約60g                   
これらにはいずれも計算上炭水化物が約20g含まれています。これらの食品のGI値が高いとしても現実的にそれらの炭水化物量が50gとなるまでは一食分としては食べないですよね。糖尿病患者さんは特にそうですよね。これらをGI値が高いと警告している報告をよく目にしますが、常用量なら血糖値に影響しないと考えてもいいと思います。個人的にいうと私はニンジンが苦手ですので血糖変動にあまり影響しないと考えられる炭水化物20g を含むニンジン200gですら論外です。勿論食べられません。じゃがいも、さつまいもは意外に食べてしまうかも知れませんね。特にジャガイモはおやつというより食事時の摂取となるので糖尿病でコントロールの良くない人はご飯などと一緒の際の摂取量を気にかける必要があります。多くの野菜、豆類、木の実、イモ類、海藻類などについてはそれらに含まれる炭水化物の量自体もさほど多くなく、更に食物繊維を多く含んでおり、日常量の摂取では血糖に影響しないと考えて良いでしょう。

註)さつまいもの方がジャガイモより炭水化物の含有量は多いですが、食物繊維量がさつまいもの方が多くGI値は低くなっています。このようにGI値には食物繊維量も関係しています。

果物についてはどうでしょう。
果物に含まれる炭水化物は果糖が主である事と食物繊維も豊富なため高GI値のものは殆どありません。現実的に一人前程度の果物では血糖はあまり上がりません。ただ、人にもよりますが果物は中性脂肪は増やします。太りやすい人は気をつけて下さい。イチゴジャムは高GI値ですが、一度に100gも食べないでしょうから大丈夫です。

註)実際的にGI値が血糖変動に与える影響において問題になる食品は、穀物、菓子類、飲み物などが考えられます。

穀物類について
低GI値   玄米、ライ麦パン、雑穀パン、春雨
中GI値   うどん、そば、パスタ
高GI値   白米、もち、フランスパン、菓子パン、クロワッサン、ナン
と分類されますが、これらの食物を摂取した際に実際の血糖変化に影響を及ぼす要因は炭水化物摂取量か後述するGL値です。ちなみに、穀物類においてはGI値の差があるのはそれらが含有する食物繊維の量によるところが大きいと思われます。

註)糖尿病でコントロールの良くない人や少しでも糖尿病薬を減らしたいと考えてる方は自分のよく摂取する穀物の炭水化物量を参考にするように日頃からして心がけて下さい。そして、余裕があればGL値についても調べることをお薦めします。

菓子類や飲み物について
菓子類や飲み物については、それらのGI値は高く一方では食物繊維量が少ないため、もしGL値(wtGL値)をチェックすることが煩わしいようでしたら単純に炭水化物含有量だけで考えても問題はありません。その際には特に糖尿病の方には一回の菓子類や飲み物からの炭水化物摂取量(一回の食事からではありません)を25g以下におさえるようアドバイスしております。おやつとして菓子類や飲み物を同時に摂取するときはそれらの合計の炭水化物量を気にかけるようにして下さい。糖尿病でない方や痩せている方は思う存分おやつを楽しんで下さい。

註)意外に飴玉やチューインガムなどはその炭水化物含有量は多いので、落とし穴になりえます。
註)和菓子と洋菓子では和菓子の方が一般的に炭水化物量が多いようです。太りやすい人やたとえ軽症でも糖尿病と言われている方は覚えていて下さい。

調味料について
常識量を使用する限りGI値の高い低いに関わらず血糖に影響しません。カレールーやケチャップも問題ありません。マヨネーズはほとんど糖分がありません。繰り返して言いますが、GI値を論じるときはその食品に含まれる炭水化物の含有量を知っておく事をお勧めします。GI値が高いと良くないという論調をよく見る機会がありますが、その摂取量が問題です。また食品の種類によってはGI値算出自体に無理があります。例えば、上記の肉類などです。
註)カレーに関しては、カレールーによるのではなく一食分の御飯の量が多いことや、じゃがいも、にんじんなどが多く入っているため要注意です。でもカレーが好きな方は量を減らして食べると問題ありません。(後述のGL値の表を参照して下さい)

GL値について

GL値グリセミックロード(グリセミック負荷)とは血糖負荷のことです。
GI値に対して最近海外で使われている血糖変動に影響を与えるひとつの指標です。

註)GL値は炭水化物の量だけでなくGI値も影響することにより炭水化物の質も反映していると考えられます。現時点ではこの概念が一番良いとは思いますが、やや煩雑です。また繰り返しになりますが、GI値同様にGL値も食物単品摂取についての正常人のデータです。糖尿病の方はそれを参考程度として応用できれば良いでしょう。私は個人的にはHbA1Cが7.5以下にコントロールされている糖尿病の方は正常人と同様な血糖変動すると想像しています。

GL値とは
1)GL値=1人前食材中の炭水化物量xGI値÷100で求める方法。
2)GL値=食材100g中の炭水化物量xGI値÷100で求める方法。
という風に報告者によって表示法が異なりますので注意してください。

1)でのGL値を算出するには目的の食材の1人前というのを知っておく必要があります。それは報告者の設定に従うしかありません。それと目的の食材中の炭水化物量も解らないと計算できません。それには日本食品標準成分表について記載のある本を購入する必要があります。この投資は安いものです。必ずいろいろな場面で役に立ちますので手に入れておいてください。1人前の食材中の炭水化物量g数とその食材のGI値がわかれば計算できます。ややこしく感じるかもしれませんが、慣れると、実際に食する食材の血糖変化への影響が類推できます。その意味ではGI値よりもこのGL値の方がより実用的です。
2)目的食材の1人前を知る必要はなく食材100gに統一している点とそれによって当然炭水化物のg数が違ってきます。1)と同じような意味合いです。どちらにするかは好みによります。

註)私の提案はGL値の概念は基本としてはいかしますが、ちょっと違います。
1)食品中の炭水化物の含有量の情報は得やすい
2)GI値の情報は豊富
である事よりこれらのデータを参考にしながらwtGL値(weight GL値)を求めます。自分が実際に食べる食品のgから炭水化物のgを計算し、次にGI値を利用しGL値を求めます。これをwtGL値といいます。wtGL値というのは私の造語です。食物の量を固定してGL値を求めることよりも、本人が摂取したい量によって値が変動する方が実用的だと私は考えwtGL値という概念を提唱します。食物に含まれる炭水化物量をブドウ糖に換算することによって血糖変動に与える影響が想定しやすくなると考えwtGL値を提唱しています。

因みに、wtGL50はブドウ糖50gに相当します。
勿論、wtGL25はブドウ糖25gに相当します。
勿論、イコールではありませんが血糖変動のイメージになると思います。

私は、穀物及びいも類、菓子類についてはwtGL値50g、果物、飲み物についてはwtGL値25gに相当する量を表にしてます。このブドウ糖50gまたは25gに相当する目的の食品摂取量を計算してwtGLで求めておくとその食品の血糖変動に対する影響が予測しやすくなると考えたからです。正常人や中等度くらいまでの糖尿病の方(HbA1c7.5まで)なら一度に摂取する炭水化物量がwtGL25くらいまでの量であれば血糖変動に大きな影響はないと考えています。wtGL50くらいからは血糖変動に影響がでてくるようになります。後述しますがwtGL60からはたとえ軽度とはいえ糖尿病の診断のついている方はそれ以上取らない方がいいでしょう。

wtGL値(weight GL値)換算表について

GL値については先ず、GLUTEN FREEのLOW CAR lifeのところを参照するといいです。私はこの表を参考にしながら、臨床家として培った感で次のような換算表を作成しました。

wegl.png

引用:http://glutenfreelife.net/ より「食品名」「一食あたり(g)」「目安」「糖質(g)」「GI値」「GL値」


註)GL値を求める時に白米を基準食としたデータがあれば日本人にとって一番役に立つと思いますが残念ながらそのようなデータがありません。しかし標準的な白米150gは炭水化物として約60gでGI 値は80%前後です。wtGL値=60g×80・100=約50g つまり標準的量白米150gのwtGL値=ブドウ糖50gと考えられます。
今回換算表の参考にした研究所では、同じ白米150gのwtGL=55g×75÷100=約41g
と報告されています。この様に報告者による違いがありますので参考程度に留めておいて下さい。
一案として、白米150g(中盛り茶碗一杯分)を基本としてイメージすると白米150gだと高血糖になるようでしたら、白米を120gにするとか、もし150g程度ご飯を食べたいなら、白米よりGI値の低い玄米を適当量混ぜてみるのもいいでしょう。

75gブドウ糖負試験について

テストミール食について
糖尿病の診断は75gのブドウ糖負荷試験でつけることが古典的な基本です。この検査は75gブドウ糖を水に溶かした液体を飲用したときの血糖変動パターンにより、糖尿病型、境界型糖尿病型それと正常型に分けます。しかし、一方では固形の75g炭水化物に1食分に相当する適量のたんぱく質および脂質の固形成分を加えたテストミール食をもちいて糖尿病の診断を行う試みもあります。テストミール食にはたんぱく質や脂肪が標準量含まれているにも関わらず、75gブドウ糖摂取における血糖変動とほぼ同様な傾向を示すことが報告されています。これをもってしても血糖変動には脂質、たんぱく質はあまり影響がなく殆ど炭水化物で決まることがお分かりかと思います。

TM.png

しかしこの二つの糖負荷試験の血糖変動を比較して見ると三つのことに気がつきませんか?

1)液体のブドウ糖単独負荷に対して固形であるテストミール負荷には炭水化物単品でなく3大栄養素
が同時期に摂取されています。それにも関わらずそれらの摂取後の過血糖のピークが液体ブドウ糖
単独負荷より早く出現する傾向にあることです。   
これは固形物摂取の際の咀嚼によりインクレチンが早期に反応したのかもしれません。
2)血糖変動のピーク値を見ると75gブドウ糖負荷試験の方が75g炭水化物含有テストミール食よりも高い傾向にあることです。 75g炭水化物含有テストミールに用いた炭水化物はGI値80くらいで考えみるとwtGL値=75g×80÷100=60gブドウ糖に概ね相当すると考えられます。つまり、wtGL値の差だと考えられます。テストミールの結果からすると、恐らくブドウ糖換算量60gあたりから糖尿病の方の血糖変動に有意に影響がで始めると考えられます。
3)カロリーで言うと75gブドウ糖は300キロカロリーです。一方75g炭水化物含有テストミール食はたんぱく質、脂質が加えられており、約500キロカロリーとなります。これら両方の負荷試験から炭水化物の質と量が血糖変動に関与しており総カロリーの問題ではないことがお分かりいただける筈です。

テストミールのデータを実際の食事のデータとして解釈するにはいくつかの問題点があります。それは食物繊維量や料理方法さらには食事に要した時間などが血糖変動に影響することは想像に難くないからです。後でも述べますが、特に糖尿病の方は、単純に炭水化物の摂取量は、ブドウ糖換算量として25g、 50g、60g、75gという数字を気にかけるようにして下さい。

糖尿病と体質について

勿論のことですが、糖尿病でない人は炭水化物の摂取制限は気にしなくて構いません。ただし炭水化物の取りすぎで太ってくる方は自己責任で減らすと良いでしょう。また一方で炭水化物をいっぱい摂取しても太らない人もいます。つまりこれは体質なのです。当然頑張る必要のない人も大勢います。

食事内容は糖尿病治療の基本肝心

糖尿病学会の報告では、糖尿病の人にとって肝心な炭水化物の摂取カロリーが全栄養摂カロリーの55~60%を占めているとしています。このバランスで血糖コントロールが上手くいっている方はそれがあっているという事です。もし糖尿病のコントロールが上手くいってなく薬の増量か食事を頑張るかで迷っている方に一つの提案があります。1日の摂取カロリーを2000キロカロリーで例にとりましょう。これは成人男性にしては決して多くないカロリーです。この中の炭水化物量を60%で計算すると1200キロカロリーとなります。一日三食として一食あたり400キロカロリーになります。炭水化物1gは4キロカロリーとされています。ということは一食における炭水化物摂取量は100gになってしまいます。固形でも液体でも75gの炭水化物摂取で糖尿病の診断をしているにも関わらず、100g摂取に関してはあまり問題視していないことに私はやや異議を唱える立場です。勿論、75gブドウ糖とテストミールに使われた固形炭水化物75gを比較すると微妙には違います。薬剤治療をする以前に運動療法(この稿では詳しくは述べません)と食事の見直しを私は優先しています。肺炎や重症な感染症または膵臓からインスリンが出てこないⅠ型糖尿病の方のインスリン注射は勿論仕方がありませんが、むしろこのような糖尿病の方を我々開業医は診る機会はさほど多くありません。

私は食事と運動の良さを患者さんに伝え、なるべく薬は使ったとしても少量少数、そして万が一インスリン注射が必要な条件下でもできる限り頻回投与は避ける工夫を患者さんの理解とともに行なっています。老々介護でインスリン4回打ちの症例を目の当たりにしたとき、その主治医が果たして自分の身内にこんな治療をするのかなあと疑問に感じた経験があります。働き盛りの方のコントロールで糖毒性を解除するためのあくまでも長期化しない4回うちは反対しません。しかしこの老々介護の例は明らかに状況が異なります。主治医は患者さんを教育して理解してもらって、かつ信用してあげるともっとより良い治療方法が見つかると思っています。

註)インスリン注射を頻回に打っている方。特に超速効性インスリンで食後血糖を下げようとしている方は色々な条件が加わりにくい朝に試していただきたい事があります。朝に通常通りの食事と指示されているインスリンを打つ方法と朝食中の炭水化物を意識して減らしてインスリン量を減らすか、もしくは4単位までならインスリンを打たないで食後の同じ時間に血糖をチェックして比較する試みをして下さい。ただし通常通りの食事中の炭水化物量が多めに摂取されている人に限ります。
この方法はその試みは血糖コントロールが上手くいっている時の方が無難でしょう。食前の血糖値でインスリンの量をスライドする方法がありますが、これは食後の高血糖のコントロールは勿論のこと低血糖予防も意図されています。でも指示された通りにインスリンを打っても低血糖になることをよく耳にします。それはその時のご飯やパンの量が少なかったのかも知れません。あなたはしっかり炭水化物量について把握していますか?
ここでは先ず朝からと書きましたが、一般に働いている方は昼の方が良いかも知れません。
どの食事からトライするのも自由です。


ins2.png
上の図に提示しているのは、昼のインスリンを減らす、または、中止する例を示しています。

上段/超速効型インスリンは各食前投与で3回投与、更に持続型インスリンを就寝前に投与する指示がされている為に1日4回投与となっています。

下段/昼食前のインスリン投与を回避し、夕食前に超速効性インスリンに続いて持続型インスリンを投与します。持続型インスリンは投与のタイミングを限定する必要がなく夕食前に続けて打つと就寝前投与の手間が省けます。

患者さんが炭水化物量を意識することで治療は大幅に進歩します

私は決して糖質制限論者ではありません。適正糖質論者です。

朝のインスリンの試みが上手くいった際には、患者さんが希望する場合には昼食夕食で応用するといいでしょう。食事を工夫してインスリン注射を減らすか、インスリン注射をそのまま頻回に続けるか否かは患者さん次第です。ちょっとした食事の工夫で投薬量を減らすことは難しいとではありません。でも頑張り過ぎないことです。長丁場なのですから。いつでも軌道修正は可能です。しかしこれだけは言っておきます。できる限り早期に良好なコントロールすることが大事です。糖尿病の治療成績を語る際にレガシー効果という言葉があります。糖尿病の早い段階できちんと治療を行っておくと後になってからでもその恩恵を受ける事がわかっています。逆に後手に回ると尾を引いてきます。思い立ったら吉日です。

私は食品80キロカロリーガイドブックとMSD社の栄養成分チェックハンドブックを参考にして、各食材中の炭水化物量を気にかけながら摂取するように糖尿病患者さんに指導しています。特に一回の食事の際は合計の炭水化物量がwtGL60g以上にならないように薦めています。これは上記のテストミール食の結果に基づいています。糖尿病のコントロールが上手くいかない人には、個人的には一食中の炭水化物量をwtGL50g~60gの以下に抑えると良いと考えています。
それでも血糖が高すぎるようであれば、投薬治療を考えます。また間食の際にはwtGL25g以内の炭水化物摂取なら問題ないと個人的には考えています。食後血糖変動の傾向を参考にすると出来れば間食やきちんとした食事の間隔は3時間以上空けることが理想的であると思います。たんぱく質や脂質に関しては特に制限を設けていません。炭水化物を控えるとその分たんぱく質や脂質が過剰になるとよく言われる人がいますが、そんなに動物実験のように脂質のみ、またはたんぱく質のみ大量に取ることは常識をわきまえた糖尿病患者さんでは考える必要はないと思います。

余裕のある方には炭水化物を取りすぎたと判断した際には自分で食後1~2時間後の尿糖をチェックすることもすすめています。この時点の尿糖がマイナスであればそれは理想的な血糖コントロールになっている筈です。尿検査なら採血の痛みはありませんし自分のペースで調べられます。ただし最近処方が増えつつあるSGL2阻害剤を服用中の方はその薬理作用の特徴を考えると例外です。

註 )食品80キロカロリーガイドブック

80KG.jpg
出展:「食品80キロカロリーガイドブック」女子栄養大学出版部 2011(編集者 香川芳子)

私はMSD社の栄養成分チェックハンドブックを参考にしています

このバンドブックは非常に良くできています。しかし炭水化物の記載の際にwtGL値という概念は盛り込まれていません。ここで記載されている炭水化物量にGI値の概念をいれてそれぞれを換算すればwtGL値(ブドウ糖換算量)を想定することができます。
特に穀物のGI値を参考にするとより具体的な利用に繋がると思います。

MSD.png
出展:「栄養成分チェックハンドブック」MSD株式会社

糖尿病治療は患者さんが主治医

糖尿病治療においては患者さん自身が主治医となることを提案しています。炭水化物が控えられないのでその分糖尿病治療薬や注射薬が欲しいという患者さんも確かにに居られます。その際には主治医である患者さんの希望に沿うようにしています。とにかく納得して治療に当たることです。

食物について

wtGL50やwtGL25の値を意識しておくと血糖変動が予想しやすくなります。表を参考にして下さい。

すでに述べたことと重複している部分も多いかと思いますが、
1)野菜の主たる栄養は炭水化物です。しかし緑黄色野菜では一度には25g以上の炭水化物量はなかなか取れないはずです。それはジュースにしても言えると思います。
2)精白されているもの(GI値では白米>玄米、精白パン>小麦全粒粉パン)は主食となるのでその炭水化物量は特に要注意です。たとえばご飯をしっかり食べたい方は白米に玄米を混ぜて食べるとGI値が下がって血糖も上がりにくくなると考えられます。
3)果物は果物のままの方がいいでしょうが、果物はジュースにしても意外に血糖は上がらないと考えられます。ほかの飲料水では炭酸飲料水には気をつけて下さい。
例えばコカコーラやファンタオレンジなどはすぐwtGL25になってしまい同時におやつなどを摂取すると血糖値に影響が来ることが理解できると思います。
4)肉、魚、豆腐、かまぼこなどなどのたんぱく質は原則としては制限することはないでしょう。
腎機能が悪化しており、たんぱく質を過剰摂取すると体にかゆみが出てくるようなら控えてください。これはたんぱく質に含まれる燐による影響と思われます。たんぱく質の過剰摂取による腎機能障害が取りざたされていますが、これには賛否両論あってたんぱく質制限か否かについてははっきりとした結論は出ていないと考えられています。別に蛋白制限はしなくても良いという安心感を与えることは患者さんの食事の楽しみに繋がると思います。また老人のサルコペニアが問題になっている昨今はたんぱく質をきちんと摂取することが非常に大事なことです。当然の事ながら併せてきちんと運動することも必要です。
5)脂質についてもあまり制限しません。DHAや EPAなどの魚の不飽和脂肪酸は抗動脈硬化作用がいわれており、積極的に摂取するといいでしょう。

不飽和脂肪酸について更にいうと、一日量として掌一掴みのナッツ類を摂取する日数が多ければ多いほど心血管障害が減ったという論文が世界的な権威の雑誌のひとつであるNEJMに掲載されました。ナッツ類を取ることで良質な不飽和脂肪酸や豊富なミネラルがとれることによると論文には説明がありました。私はそれに加えてナッツ類を多くとることにより、炭水化物の多いジャンクフードの摂取機会が減ったという一面もあったのではないかと思っています。ナッツ類は栄養価が高く、炭水化物でないために血糖にはほとんど影響しません。糖尿病の方に特にお勧めの食物のひとつです。

飽和脂肪酸は患者さんの自由で良いと思っています。何故ならわれわれは動物ではないので、自由にいっぱい食べて良いといわれてもあまり体にとって過剰になるほどは食べられないものです。ただし脂肪は多く取りすぎると糖尿病を引き起こすという説を唱えるドクターもいらっしゃいます。昔は炭水化物がほとんどだったけれど、近年の糖尿病の増加は炭水化物量が増えたためではなく脂肪摂取量が増えたためだという説に立っています。脂肪摂取過剰による肥満とインスリン抵抗性の問題はあるかもしれません。

血糖の急激な上昇に関しては炭水化物が関与していることは誰もが認める事実です。脂肪摂取直後の血糖上昇への直接作用はなさそうです。脂肪過剰摂取による肥満やそれに伴うインスリン抵抗性などで間接的に血糖へ悪影響する事は当然考えるべき事です。

糖尿病の方は特に運動は非常に重要な課題です。運動による筋力アップ、サルコペニア、マイオカインなど話が複雑化しそうなのでこれ以上は割愛します。

註)太るということは中性脂肪(TG)が増えることです。過剰に摂取された炭水化物からTGへ体内で変換されることが判っています。特に果物類は炭水化物が豊富ですが、果物のそれは血糖変動に対する影響よりもTGを増やす傾向があるようです。過剰な脂質からTGへも変換されるでしょうが、脂質は意外に量がとれません。しかしついつい炭水化物は取ってしまいます。TG増加にはこちらの影響が大だと個人的には思っています。しかし勿論、脂肪を摂りすぎる傾向のある方は肥満に注意です。

食事の順番について

1)炭水化物を控えることができる方はあまり順番のことは気にされなくて良いと思います。
2)炭水化物を多くとる傾向のある方は野菜やおかず等を先に食べることを薦めます。でも15分以上かけてゆっくり味わって食べないとその順番も意味がなさそうです。
矢部先生のデータでは、野菜を食べてから5分以上開けると有意差があるようですタンパク質も同じ
糖尿病の方はHbA1c値そのものが高いこと以外に特に血糖の急激な変動が血管を傷める大きな要因のひとつであることが知られています。その血糖変動の原因の食べ物は炭水化物だとクドクド書いてきました。

一例を挙げます

朝小さなコッペパン2個と無糖のコーヒーで7~8分で済ませたとある患者さんに言われました。私はせめて、洋食系を好むならならハムか卵またはチーズを足したり、もし和食系を好むなら、魚やかまぼこ、もしくは大豆や納豆などを加えることで15分以上時間をかけることを提案しました。何故なら時間をかけることで急激な血糖変動が避けられる可能性がある点と更には筋肉のもとになるたんぱく質をしっかり摂るという利点に繋がるからです。それにたんぱく質は血糖変動に大きな影響はおこしません。この数年私はカロリーありきの栄養学ではないような気がしています。

註)HbA1cの質という言い方がされるときがあります。
糖尿病コントロールにおいてその代表的指標であるHbA1c値が正常範囲に近づくように治療することは概ね良いことではありますが、同じHbA1c値でも食前食後の血糖変動の幅が大きいほど血管を傷めてしまうということもわかっています(いわゆるHbA1cの質)。だからより良い質のHbA1cを実現するには低血糖や極端な食後過血糖を避ける工夫をする必要があります。その為には低血糖を引き起こしやすい治療薬を避けることも大事ですが、炭水化物量の加減や食事にかける時間にも留意することが望まれます。

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ディナーは早めに開始してゆっくりと時間をかけて。しかし遅くまで食べないこと!

特にディナーは語り合いながら時間をかけて食べることが良いです。なぜなら急いで食べても正常な人は血糖の急激な変化はコントロールされますが、糖尿病の方はその制御が上手くいきません。血糖値がずっと高いのも問題ですがそれよりも血糖の急激な変化の方が血管を痛める事が分かってきています。特に糖尿病のコントロール良くない方は朝昼夕それぞれの食事中であれば、それらを含めた炭水化物量は各食時の合計で50g~60g(wtGL値換算)以内が良いと考えています。この際における脂質、たんぱく質の制限を私はしません。特にたんぱく質は筋肉の材料になるので、筋肉量の減少を防ぐため積極的に取ることを勧めます。

夜遅い飲食はなるべく避けたほうが良いと考えます。できれば睡眠前3時間以内の食事は止めたほうが良いでしょう。何故なら、睡眠中は副交感神経が優位となり食べたものの吸収が盛んになります。
一方起きているときは交感神経が優位に働き吸収より発散に傾くと考えられます。せっかく食事の内容を気にしていても食べてすぐ寝るのは良くなさそうです。

註)おにぎりは早食いになるばかりでなく、ごはんの量も多いうえ食べる順序もご飯からですので気をつけましょう。
註)弁当は炭水化物が気になる方はごはんだけ勇気をもって減らしましょう。

尿糖測定テープの購入

私は糖尿病治療中の方で食事について関心のある方は尿糖を測定するテステープを購入する事をお勧めします。採血でないので痛みを伴わないこと、いつでも自己責任で管理できるからです。ただし最近処方が増えているSGLT2阻害剤を服用されている方では参考になりません。
このテープで時折、尿たんぱく量も調べてみて下さい。尿たんぱく陽性は動脈硬化の進展を意味します。
糖尿病の方で尿たんぱく陽性の方は主治医によく相談して下さい。

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テステープ 出展:http://equitystory.jp/interview/eiken_interview.html
尿検査用試験紙『ウロペーパーIII』(種類:一般検査用試薬)


糖尿病の方でコントロールの上手くいかない人、体質的に肥りやすい方は一日の飲み食いした物を書き留める習慣を作ると良いでしょう。全ての食べたものを記す事が難しい場合には最低でも炭水化物の記載はお勧めします。
当然の事ですがだいたい自分がよく食べるものは決まっていると思います。それらについて特に炭水化物量を予め把握しておく事です。しかし一方で、割り切って考えれば殆ど飲み食いしない物については、調べる必要も知っておく必要もありません。

インスリンについて

皮下のインスリン注射は、先ずは筋肉へ強く働く一方肝臓、膵臓のランゲルハンス島においては弱くなっています。内因性インスリンは膵臓のランゲルハンス島から分泌され門脈を通じて肝臓で働き、その後筋肉に働き、その総合作用で血糖をコントロールします。
食後過血糖を放置しているうちに内因性インスリンの質が変わることがあるようです。そのインスリンは膵臓から肝臓まではいきますが、肝臓で壊されることによって筋肉まで必要量が届かなくなると高血糖をひきおこしてしまうようです。
いかに内因性インスリンの質と量を早期のうちに担保できるかということが、理想的な糖尿病治療の重要課題です。

註)ブドウ糖をしっかり筋肉に取り込ませる為にはインスリンが必要であるという事実を銘記しておいて下さい。
註)高血糖とは筋肉や各臓器における糖の利用低下により血管内に糖があふれている状態ともいえます。放っておくと筋力低下や各臓器のダメージにも繋がります。

悪いレガシー効果を抑える為にしっかり血糖をコントロールすることが開業医の役目だと考えています。自信がなければ早期に専門家へ紹介する姿勢が大事です。

註)糖尿病のコントロールについて=診断がついたらすぐ治療、早期に内因性インスリンの回復を

糖尿病のコントロールは早ければ早いほど良い

糖尿病のコントロールは早ければ早いほど良いと言われています。何故なら境界型糖尿病の段階からすでに動脈硬化が始まっているという報告があります。だから尚更、糖尿病の診断を受けた早期よりしっかりコントロールする事が大事なのです。

糖尿病は空腹時高血糖よりも食後過血糖の状態が先行する事が多いようです。

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資料:監修順天堂大学 名誉教授 河盛隆造先生監修


最近のデータではこの早期の食後過血糖を放っておくと比較的早い段階で膵臓β機能低下(内因性インスリンの分泌低下)が生じてくる事がわかっています。更にはそれと同時に亜鉛低下が起こり内因性インスリンが肝臓で壊されやすくなります。その為内因性インスリンが筋肉へ届きにくくなり高血糖につながるようです。しかしこの際に亜鉛を補っても効果が見られず、早い段階で食後高血糖の是正をする事が正常な内因性インスリン分泌を保つコツのようです。

註)健康診断はその殆どが空腹時採血です。これで正常でも糖尿病は否定出来ません。食後の採血でも炭水化物を摂取していないと血糖は正常範囲内のことがあります。HbA1cという糖尿病診断の良い検査がありますが、必ずしも検査しているとは限りません。普通通りにしっかり食事して1~2時間以内に採血してもらうことが、早期の糖尿病の発見には実用的だと思います。または目一杯食事して1~2時間後の尿検査もお勧めです。

膵臓β細胞 インスリン、膵臓α細胞 グルカゴン

最近、血糖コントロールに関してインスリンとグルカゴンの協調作用が重要だとわかってきています。その協調のためにはいち早く内因性インスリン分泌が保たれる事が必要事項です。内因性インスリンが保たれている状態では食後の血糖変動は炭水化物摂取量である程度予測できると考えられます。しかし内因性インスリンが大きく乱れてくるとグルカゴンとの協調も乱れ食後の血糖変動が不規則になり予想がつかなくなると思われます。
そのためには早期より炭水化物の適正摂取の見直し(私は糖質制限論者ではありません)が基本であると私は考えています。

註)私は個人的には種々な原因でHbA1C8.0以上が恒常的になるリスクがあると考えられる患者さんには、早期にインスリン注射を勧め、先ずは食後過血糖の改善に全力を尽くします。そしてできる限り健全な内因性インスリン分泌の回復を急ぐようにしています。

正常な内因性インスリンのできる限り早い復活が糖尿病治療の最重要事項です。レガシー効果が言われる所以です。症例によってはインスリン治療が最後の手段ではなく先手必勝薬です。

勿論、私は血糖変動が落ち着いてくればインスリン注射は減量ないし中止していきます。糖尿病治療は患者さんの理解を得ながら流動的に行います。血糖変動の波をできる限り早く正常人に近づける事が理想的な糖尿病治療です。

註)インスリン治療は早期導入、早期撤退。が私のモットーです。

1型糖尿病や罹患年数が長く難治性の糖尿病の方は例外です

HbA1Cの検査自体が約2ヶ月のタイムラグがありますが、そのことを患者さんと話ながら低血糖を可能な限り避けながら、悪くてもHbA1Cは7.0以下を目指します。しかし可能な限り正常人の血糖変動を目指すことは言うまでもありません。大病院の先生方は我々開業医がみる症例に比べ、中等度以上の難治療例で大変だと考えています。私自体が手こずる症例はなるべく早い時期に大病院の先生に紹介して連携を心がけています。

一度に摂取する際の炭水化物量に関しての私の見解は以下のごとくです。
ただし内因性インスリンの分泌が保たれている(膵臓β機能低下または糖毒性が生じていない)とされる軽症から中等度の方に限ります。糖尿病罹患年数や経時的HbA1Cの変化にもよりますが私はHbA1C7.5以下と考えています。

1)wtGL25g以下なら、血糖値変動に大きな影響はないと考えます。ただし空腹若しくは食後3時間以上経過した条件下での摂取であり、1日のトータルの話ではありません。糖尿病が悪化していない状態であればGI値の高いブドウ糖ですら25g以内なら血糖変動も影響は少ないと思います。炭水化物で太りやすい人にもこのくらいの量は問題ありません。
2)wtGL50g過ぎたあたりからは、上のどちらの方も問題となりえます。テストミールの結果からはブドウ糖60gあたりから血糖変動に影響が強まっているようです。
3)wtGL60g以上は、糖尿病の診断のついている方は軽症の方でも大いに問題です。
このことはテストミールや75gブドウ糖負荷試験の血糖変動からもいえると思います。

特にコントロールの良くない糖尿の方は一食中の炭水化物の合計でwtGL50g~60g以下が良いと考えています。

註) じゃがいもやさつまいもなどの芋類は食事中であれば、穀物との兼ね合いでその量は血糖変動に対して要注意ですね。特にじゃがいもの方はおやつというより食事時が多いでしょうからその摂取量には気をつけて下さい。ニンジンは高GI食品とする報告は多いようですが、血糖値に影響を及ぼす程の量は食べないでしょう。糖尿病の方は食後のデザートより3時のおやつ感覚の方が良いでしょう。飴玉やチューインガムなども意外と炭水化物多いので気をつけて下さい。

註)主治医はあなたです。

悪玉コレステロールの治療に関しては必要と判断すれば服薬することで殆どの方が上手くコントロールできます。食事や運動に気をつけても意外と良くならないという経験をお持ちの方が殆どだと思います。その対局にあるのが糖尿病や高中性脂肪の方です。多くの糖尿病の方は高中性脂肪を合併しています。この両方に関しては運動と食事(特に炭水化物)がその治療に大きな比重を占めています。

ちょっと知っておくといい豆知識をお教えします

1)採血条件が空腹か食後かによって検査値が異なる検査の代表は、血糖値と中性脂肪値(TG)の二つです。食事の内容と食後何時間であるかについて主治医に話せるようにして下さい。
2)ブドウ糖と中性脂肪の両方からエネルギーをもらい筋肉は動いています。コレステロールは筋肉の
栄養源にはなっていません。

TGは肥る原因にはなりますが、ブドウ糖と違って急激な血糖変動は引き起こしません。
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※中性脂肪は分解され血中で遊離脂肪酸となり筋肉で消費されます
出展:http://www.tounyou.tank.jp/ に「遊離脂肪酸」を追加

結語

総カロリーについて
糖負荷試験のデータから明らかなように血糖変動に影響するのは、炭水化物の質と量であり、たんぱく質や脂質を加えて総カロリーを増やしてもほとんど血糖変動には影響はありません。

炭水化物摂取量について
糖尿病の方においては食事もしくは食品中の総合wtGL値(ブドウ糖換算量)を把握しておくと食後血糖変動がイメージしやすいと考え換算表を作成しました。
その際にwtGL25gや50g相当を把握しておくと便利だと考えます。

75g炭水化物含有テストミール食から言える事
GI値を加味するとテストミール食中の75g炭水化物はwtGL60g(ブドウ糖約60g相当)と計算されます。
一方75gブドウ糖負荷試験の血糖変動について詳しく観察してみると、種々の実臨床のデータ解析から想定される理想的な糖尿病コントロールを得るにはこの75gは多過ぎると判断しています。
依って軽症~中等度までの糖尿病の方の各一食分の炭水化物の総量はwtGL50~60g以下が理想的だと個人的には考えています。

投薬を増やすか食事中の炭水化物量をコントロールするかどうかは患者さんが主治医のごとく自己責任において決定すれば良いと考えます。

特に主治医からインスリン注射を勧められている方や、既にインスリン注射治療を行っている方は炭水化物摂取量を意識する事でインスリン注射を回避、減量または中止することも大いに可能です。

自己尿糖測定は一部の制約はありますが、患者さん自らが主体となって血糖コントロールの判断をすることの一助となると思います。しかし注意しないといけない点は、尿糖からは低血糖の判断はできません。その為、低血糖をおこしうる得る投薬の有無を知っておくことも必要です。

たんぱく質摂取量について
たんぱく質を十分にとることは、今、話題となっているサルコペニア(筋肉減少)の予防にも大事なことです。たんぱく質摂取では急峻な血糖変動はほとんどおこしません。
註)サルコ(筋肉)ペニア(減少)が語源となっています。

早期からの血糖コントロール

境界型糖尿病の段階から動脈硬化が生じるといわれていることもあり、糖尿病の早期からしっかりコントロールすることが望まれます。

HbA1cの質を考えること

HbA1cについてはその値だけでなく質も大事である事がわかっています。
その為には急峻な血糖変動を避ける努力が大事だと考えます。
そのためには一度にとる炭水化物摂取量もそうですが、ゆっくり食事に時間をかけることも大事な要素です。昔から言われている、よく噛んで食べること、という格言を思い出してください。
摂りやすい炭水化物だけでなく毎食必ずたんぱく質を取ることで食事の時間ももっとかけられ、且つ筋肉の維持にも役立つ事を覚えておいて下さい。

認知症がなくかつ自立生活がおくれる方について

低血糖を引き起こす可能性のあるとされている薬剤を使ってない条件下であれば、年齢に関係なくHbA1c7.0以下を目指し、更に限りなく正常から境界型糖尿病に 近い血糖コントロールを目指します。

若い人であればあるだけ尚更のことです。

ただし低血糖を引き起こす可能性のある薬剤を使わざるを得ない症例では、 HbA1c7.0以下は目指しません。

痴呆症のある方や自立生活ができない方について

HbA1c8.0あたりなら良好なコントロールだと考えます。
インスリンやSU剤は原則として使いません。
もし使うとしてもそれらは極力少量にとどめHbA1c8.5くらいでも仕方ないと考えています。

運動

有酸素運動やレジスタンス運動を適宜組み合わせて筋肉におけるブドウ糖や中性脂肪の利用および消費を高めることは大事な糖尿病治療となります。
私は個人的には時間と場所を選ばないレジスタンス運動を優先します。1~2分で行える運動を自分の身体と相談して行うことです。回数や時間帯は適宜自己判断でいいと思います。他人とは体質も環境もみんな異なります。他人と比較する必要はありません。あくまでもマイペースで行ってください。

註)この稿では軽症から中等度の糖尿病をHbA1c7.5までとしています。

中等度以上の糖尿病の方の一食中の炭水化物量についてはいろんな意見があり、主治医と相談しながら試行錯誤することをお勧めします。

患者さんの十分な理解の下に、治療し続けていても恒常的にHbA1cが8以下にならない症例については一度は大学病院クラスの専門家の教えを乞う様に心がけています。

ご理解頂きますように 
私の本稿で述べた事は糖尿病の方でも中等度までの方に対してが主です。われわれ開業医が速やかに対応出来なかった為にインスリン治療などで苦心されている大病院の先生方のご苦労に感謝しています。


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