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2023年4月25日

新型コロナウイルス感染症のこれから ~松山俊文先生(長崎大学名誉教授)との対談~


團茂樹:本日は、私の留学先の同窓生であり、インターフェロン研究に長い間携わってきた松山俊文先生(長崎大学名誉教授)に来ていただき、新型コロナウイルス感染症のこれからについて教えてもらおうと思っています。先生宜しくお願いします。


松山俊文:本日はお招きいただき有難うございます。先ずは私の研究のバックグランドからお話いたします。
私の基礎医学者としての経歴は1986年にヒトレトロウイルス学の研究から始まりました。最初は山口大学医学研究科寄生体学、そして国立がんセンター研究所ウイルス部で学んで学位を取ったのちに、1989年にカナダのトロントにあるオンタリオ癌研究所に留学しました。そこで團先生と一緒になったわけです。留学後2年目からインターフェロンの研究を始め、遺伝子欠損マウス作成や新規遺伝子のクローニングも含めたインターフェロン研究を今に至るまで続けてきました。


團:インターフェロン研究者の先生から見て、今度の新型コロナウイルスはどのような特徴があるのでしょうか?


松山:新型コロナウイルスは人類の歴史上で最もインターフェロン系を無力化することに成功したウイルスと言えます。インターフェロンというのはウイルス感染が体の中で広がるのを防ぐ働きをしています。逆にウイルス側からするとインターフェロンは邪魔で仕方がないわけです。そこで数々のウイルスがインターフェロン系を阻害する遺伝子を編み出してきました。しかし新型コロナウイルスほど効果的にインターフェロン系を阻害するウイルスはありませんでした。


團:インターフェロン系という言葉の意味を説明してもらえますか?


松山:インターフェロンではなく、インターフェロン系とわざわざ使っている理由は、細胞にはインターフェロンを作る細胞と、その作られたインターフェロンを受け取る細胞の二種類があるからで、それをまとめてインターフェロン系と表現しています(図1)。インターフェロンを作る細胞は、まさにウイルスによって感染を受けた細胞です。この感染細胞はインターフェロンを出すことによって、周りの未だ感染していない細胞に警告を発し、周りの細胞はインターフェロン刺激を受けて数多くの抗ウイルスタンパクをつくることでウイルスの侵入に備えます。


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團:新型コロナウイルスはそのどちらに作用するのでしょうか?


松山:新型コロナウイルスはどちらにも作用します。つまり、ウイルスの侵入警告を与えるインターフェロンができなくなるようにするとともに、周りの未感染細胞がインターフェロンの刺激を受けにくいようにしてウイルス感染の拡大をしやすくしています。


團:新型コロナウイルスは20種類を超える遺伝子を持っていますが、そのうちのどの遺伝子がインターフェロン系を無力化することに働いているのでしょうか?


松山:新型コロナウイルスの遺伝子の中でインターフェロン系に作用する遺伝子は10種類近く報告されていますが、そのうちで最も注目すべきはORF6という遺伝子です。この遺伝子からできたタンパク質は僅か61個のアミノ酸ですが、これがインターフェロン系の何れにも作用すると言われています。


團:新型コロナウイルスはRNAウイルスですので変異が入りやすいと聞いていますが、ORF6についてはどうなのでしょうか?


松山:私も新型コロナウイルスが出現したときに、何れ多くの変異が入って新型コロナウイルスの脅威がなくなると思っていました。そこで次々に発表されるORF6遺伝子配列に注目してきました。確かに世界各地でORF6に変異が入った型が報告されましたが全て散発的で主流は元の配列のままです。


團:ということは、今後もORF6遺伝子に限れば変異は起こりにくいと考えられるのでしょうか?


松山:そうです。新型コロナウイルスを擬人化して例えるならば、新型コロナウイルスはORF6の機能は絶対に手ばさないでしょう。インターフェロンというのは風邪症状を引き起こす物質です。ORF6によってインターフェロン系が働かないお陰で、発熱、咳嗽等の風邪症状が出る前に感染を広げることができますので、ウイルスにとってこれほど好都合なことはありません。今後は、より強力なインターフェロン系阻害作用を持つORF6に進化することはあっても、新型コロナウイルス遺伝子からORF6の機能がなくなることはないと思っています。


團:ワクチンのお陰で、またオミクロン株という弱毒株の出現で重症化する人が減りましたが、今後は脅威が少なくなるのでしょうか?


松山:ウイルスにとっては感染を拡大する能力が一番大事で、感染者を重篤化するか否かはほぼ関係がないことです。ですから現在は弱毒化していますが、これから先も弱毒化したままかは予想ができません。


團:新型コロナウイルスで一番怖いのは死亡率が高いことだったのですが、現在では随分と低下したようですが。


松山:重症化、死亡率の低下はワクチンによるところが大きいですが、経験的に判ってきた治療法のお陰でもあります。ここで治療について整理してみます。新型コロナの治療戦略には二つあります。一つは新型コロナウイルスそのものを狙う戦略、もう一つは新型コロナウイルスによってもたらされた免疫系の過剰応答を抑える戦略です。
前者はワクチンと抗ウイルス薬のパキロビッドです。後者は副腎皮質ステロイドであるデキサメサゾン、そしてアクテムラと呼ばれる薬が代表的です。


團:確かにウイルスは検出できなくなっても重症化することから、ウイルスそのものではなく免疫系の過剰応答が悪さをしていると考えられますね。


松山:私は重症化の治療には免疫系の過剰応答をコントロールすることが重要だと考えてきましたので、デキサメサゾンはまさにぴったりの薬だと言えます。


團:免疫系の過剰応答を抑える薬としてアクテムラの効果はどうなのでしょうか?


松山:アクテムラの治験が各国で行われましたが、未だに効果について結論が出ていない状態です。理由の一つは、そのほとんどの例でデキサメサゾンも一緒に使われていて、どちらの効果かはっきりとしないからです。


團:先生はキューバの成功例を挙げておられましたね。


松山:実はあまり知られていないのですがキューバでは新型コロナの新規患者が激減するとともに、新型コロナによる死亡者がこの9か月間出ていないのです。


團:キューバでは二歳以上の国民全員にキューバ発のワクチンを打っているそうですが、その効果でしょうか?


松山:確かに国民の95%が一回以上、85%がほぼ4回のワクチンを受けているので、死亡者ゼロの背景には世界で一番高いワクチン接種率の効果があるとも言えます。しかし、ほぼ同じくらいワクチン接種が行われてきた台湾は一時期は死亡者が極めて多いことがありましたのでワクチンだけで死亡者ゼロにはできないようです。


團:ではワクチンの接種率の徹底に加えて何が良かったのでしょうか?


松山:キューバは自国でいくつかの抗体医薬を作ってきました。そのうちのニモツズマブという抗がん医薬に新型コロナの重症化予防作用があることをキューバの研究者たちが見つけたのです。キューバは2021年夏から秋にかけて新型コロナの爆発的な死者数の増加が見られましたが、ニモツズマブを国の標準治療として取り入れてから死者数の増加が完全に抑えられています(図2)。そしてニモツズマブは既に5,000例以上の中等症・重症例に用いられたとされています。


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團:キューバの統計の信頼性はどうなのでしょうか?


松山:そこが一番議論があるところで、殆どの人は共産圏からのデータだからと信用していない状態です。私はキューバの治験統括者であるTania Crombet Ramos先生に直接連絡を取って尋ねてみましたが、キューバのICUには新型コロナの患者はいないと繰り返して言っていますしTania先生は誠実な方ですので彼らの統計を信じたいと思っています。


團:キューバの統計が本当なら、そして日本でもニモツズマブが使えるようになれば死亡者も減らせるかもしれないですね。


松山:残念ながら日本ではニモツズマブは使えませんが、同じ作用機序をもつ薬がありますので、それらが使えるようになり、いつの日かキューバと同様に新型コロナが死なない病気になることを願っています。


團:確かに新型コロナで死ななくなればインフルエンザ並みになり、例え新型コロナが何時まで残っても大丈夫そうですね。そのような日が来ることを私も期待したいところです。本日は有難うございました。


2023年4月 2日

「セゾンのくらし大研究」サイトに記事掲載されました(2023年3月18日)

脳トレよりも効果的!?認知症の発症・進行を防ぐ「運動」のすすめ

【目次】
1.認知症とは?
2.アルツハイマー型認知症の発症・進行を予防するには?
3.「認知症の前段階」も「発症後」も筋力アップが大事
4.アルツハイマー型認知症予防におすすめの運動

2023年3月27日

月間健康雑誌「安心」記事掲載されました(2023年3月号)

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2023年2月23日

まずは多くの医療機関で行われているアレルギー性鼻炎の一般的治療法として

i)抗アレルギー経口剤もしくはアレルギー関連経口剤。
ここで使用される薬品はその種類も多く、且つ殆どの方がアレルギー性鼻炎の治療でまず処方される薬剤の事です。

ii)点鼻薬。
鼻詰まりがひどい時や妊婦さんで経口剤や注射を避けたい時に選択。
ただし副鼻腔炎を除外診断。

a)血管収縮点鼻薬:7〜10日以内の使用にとどめること。
それ以上続けると寧ろ悪化してしまいます。
b)ステロイド入り点鼻薬:やや長丁場の花粉による鼻詰まりに使用


特殊な治療として

I)減感作療法〜体質改善の見込みはありますが、一定の通院期間を要し、かつ速効性はありません。
例年辛い思いをされる方が、シーズン前に試みる選択肢の一つ。専門医の治療を必要とします。(特に以下のiとii)

i)注射薬
アレルギー症状を起こす物質(スギ花粉など)を、低濃度から少しずつ注射することにより、患者さんの抵抗力をつけ症状を出にくくする治療法。

ii)舌下免疫療法
すぎ花粉とダニアレルギーの二つに限ります。 満5歳から治療可能

iii)ヒスタグロビン注射
ヒスタミンと免疫グロブリンを合わせた薬のこと。
特定の抗原による減感作療法では有りません。週に1回から2回受診する必要があります。これを3週間続けることで、初めて効果が期待できます。副作用は少ないようです。


II)ケナコルト筋肉注射〜因みに私はよほどでないと行いません。
これは速効性が有り安くてよく効きます。しかしこの治療には賛否両論があります。何故なら中身が「長期に持続するステロイド」ですから。ケナコルト40mg筋注で、プレドニゾロン15mgを2~3週間内服することに相当するようです。
この量はかなり大量なステロイド量といえます。
糖尿病悪化、消化性潰瘍、骨粗鬆症、血圧悪化、副腎皮質の機能低下、顔が膨れる(満月様顔貌)、月経異常、皮下出血、感染症になりやすい、など、一般的に言われているステロイドホルモンによる副作用に注意する必要があります。
ケナコルトの適応症に「アレルギー性鼻炎」とありますので、ちゃんと健康保険適応ではあります。
主治医とよく相談してください。

PS1)セレスタミンというステロイド剤と抗ヒスタミン剤の合剤がずっと以前からあります。
この薬の使用に関しても、漫然とした長期使用はケナコルト筋注に於ける副作用と同様な副作用が危惧されます。点鼻薬として使われるステロイドホルモンはその安全性はほぼ担保されていますが、経口剤や注射薬としてのステロイド剤の使用に関しては、
ことアレルギー性鼻炎の治療に関しては慎重になるべきとの意見が大半です。

PS2)あくまでも私見として。オーソドックスな治療を行い、かつ漢方薬も併用してもまだ難治性の場合。セレスタミンの改良として、プレドニンと眠気のこない第2世代の抗アレルギー剤を併用し、経口剤として短期治療をする選択肢はアリと思っています。ただし、ずっと書いているステロイドの副作用とその効果を天秤にかけ、患者さんと話し合って決める事。幸い、漢方薬もうまく併用できている為かこのような難治例にはまだ遭遇していません。ただし、私自身減感作療法や抗体注射薬の使用経験はありません。


III)生物学的製剤(抗体注射製剤)
2020年より、重症・最重症のスギ花粉症に対して、2月~5月に抗IgE抗体オマリズマブ(ゾレア®)を皮下注射する治療(保険適応)を行うことができるようになりました。
かなり高額になることと、適応に関しては専門家の知識が必要となり安易な治療では有りません。


IV)耳鼻科医の専門技術による治療
特に鼻詰まりが極端にひどい人に。
a)耳鼻科医による下鼻甲介切除術
b)レーザー治療(再発しやすい方もいるようです)


V)漢方薬治療
i)小青竜湯
アレルギー性鼻炎で1番有名な処方。薄い鼻水やくしゃみの多い方。

ii)苓甘姜味辛夏仁湯 
小青竜湯から麻黄などを取り除きアレンジしたもので心疾患を有する高齢者や胃腸の弱いひとに。

iii)麻黄附子細辛湯 
老人や冷え性で寒冷により鼻水、つまりがあるひとに。

iv)葛根湯加川芎辛夷 
小青竜湯より鼻つまりに対しては効果あり。

v)辛夷清肺湯
慢性的に続く鼻詰まりに。鼻腔の炎症で熱感を伴う傾向があり、これを冷やす目的 で、石膏(セッコウ)、知母(チモ)、黄ゴン(オウゴン)、山梔子(サンシシ)のような清熱薬(セイネツ ヤク)が含まれています。この点で、小青竜湯や葛根湯加川芎辛夷と適応病態が異なる。

vi)荊芥連翹湯
これも慢性的に続く鼻詰まりに試す価値あり。熱を冷ます生薬が多く辛夷清肺湯に似る。

アレルギー性結膜炎

各種自分にあった抗アレルギー経口薬を試し、効果不十分であれば、各種抗アレルギー点眼薬を併用し、更に効果不十分であればステロイド入り点眼薬を使う流れが一般的だと考えます。
アレルギー性結膜炎は上記の組み合わせでほとんど事足りる印象です。

それでもダメでどうしようもない時にケナコルト筋注はあり得るのかもしれませんが、緑内障へのリスクや上記のリスクを考え、本剤使用に関しては慎重に。
あえて漢方薬を併用するなら

i)清上防風湯
これは日本ではニキビ治療になっているようですが、身体上部、特に顔面の熱感、痒みを取る作用が期待される生薬が配合されてるのでトライする価値あり。

ii)越婢加朮湯
涙が多く出るような時で点眼薬を使っても効果不十分な時試す価値あり。
使用経験はありませんが、涙が多いのを浮腫と考えて、証を見ながら、五苓散、や防已黄耆湯などもありかも。

保険外ですが、
杞菊地黄丸
目に良いとされる甘菊花や枸杞子が入っているので眼精疲労などに対しても試してみたい薬剤。
花粉症の治療に関しては西洋薬の方が多くの先生にとって使いやすいことには違いありませんが、私は長年漢方薬を使ってきて、その相乗効果を認識しています。今のネット社会はすごく便利です。一方で情報は玉石混交です。蘊蓄話でなく実際的か否か見極めて下さい。そしてその実験や動物の話で終わってるのは、人でのデータがないと心得てください。

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