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2017年11月19日

血中におけるコレステロールや中性脂肪の存在

コレステロールや中性脂肪などの脂質は水に不溶性のためアポ蛋白と結合 して、リポ蛋白の形で血液中に存在しています。
つまり、中性脂肪もコレステロールも血液中をそのまま単独で循環しているわけでは有りません。

リポ蛋白

リポ蛋白は比重や粒子の大きさによって以下のように分類されています。
比重により、
1)CMカイロミクロン
2)VLDL(超低比重リポ蛋白)
3)IDL (中間比重リポ蛋白) VLDLレムナントとほぼ同意語
4)LDL(低比重リポ蛋白)
5)HDL(高比重リポ蛋白)
に分類されています。

一方粒子の大きさはこの順に小さくなります。

コレステロール値の計算

これらのリポ蛋白中に含まれているコレステロールを表す時は、各リポ蛋白の後にコレステロールをつけて呼びます。
例えば、LDLコレステロール(LDL-C)のように。

血液検査ではリポ蛋白に含まれるコレステロール量を総コレステロール値(TC値)
リポ蛋白に含まれる中性脂肪を中性脂肪値(TG値)として測定しています。
同じく善玉コレステロール(HDL-C) と 悪玉コレステロール(LDL-C)があります。

TC=HDL-C+LDL-C+VLDL-Cが概ね成り立ちます。
VLDL中のコレステロールと中性脂肪の比率からVLCL-C=1/5TGで計算 されます。
厳密にはレムナント-Cもこの式に入りますが、ここではVLDLに含まれています。

註)欧米においては
LDL-C=TC-HDL-C-1/5TGというフリードバルドの式を用いる事が、ゴールドスタンダードとなっていますが、日本では特に健診診断においてはLDL-C値が直接法で求められており、医師仲間において混乱の原因となっています。
フリードバルドの式は空腹時採血という条件があります。ただしTG値が400以上では使えません。
因みに食後採血の場合だとVLDL中のTG比率が増えてくる為にこの式は使えません。
糖質やアルコールはVLDL産生を亢進する傾向がある事も分かっています。

VLDLやLDLについて

リポ蛋白の主な仕事は中性脂肪とコレステロールの運搬です。
ざっくりとした言い方をするとVLDVは肝臓でつくられ末梢組織への中性脂肪の運搬を行う。
LDLは肝臓で作られたコレステロールを末梢組織へ運搬する。
HDL(善玉リポ蛋白)は小腸や肝臓で作られ更にはカイロミクロンやVLDLからの代謝からも生成されますがそれらの関係は複雑です。

A)中性脂肪(TG)供給

i)カイロミクロン(食餌性、外因性脂質と呼ばれてきます)
ii)VLDL (内因性脂質とよばれ肝臓で作られます)
この両者は中性脂肪を豊富に含有しているためTGリッチリポ蛋白と呼ばれています。

この両者は血管内皮細胞にあるLPLにより分解された後、肝臓を始め脂肪細胞や筋肉など各組織に中性脂肪を供給します。

中性脂肪は動脈硬化巣には存在しませんが、RLP-CやsdLDL-Cとの関係から数ヶ月も空腹採血で150以上が続くときは何らかの対策を取る事をお勧めします。

TG値を良くするには薬剤治療よりも炭水化物過剰摂取を控え、レジスタンスまたは有酸素運動のいずれかの運動を取り入れることを優先する事が大事であると考えます。

臨床の種々なデータから良好なTG値コントロールとしては空腹で80以下食後でも150以下が良さそうです。

B)コレステロールの流れ

肝臓において産生されたVLDLは→VLDLレムナント(IDL)→LDLへと代謝され肝臓も含む各組織にあるLDL受容体を介してLDL-Cは各組織にコレステローが取り込まれます。
つまりLDLはコレステロールの運搬屋の顔を持っています。
LDL-Cは悪玉コレステロールと呼ばれていますが、LDL-Cは各組織における細胞形成 及び種々のホルモン合成において大事な役割を担っています。
LDL-Cは体にとって欠かすことはできません。適量は必要なのです。

動脈硬化惹起に働くのは

動脈硬化惹起に働くのは、つまり動脈硬化巣のplaqueとして存在するのはsdLDL-C (small dense LDL-C)、RLP-C (レムナントコレステロール)の両者です。

LDL-C(悪玉コレステロール)でもTG(中性脂肪)でもありません。
しかしLDL-CとsdLDL-C、TGとRLP-Cとは関係性が深いことは容易に想定されます。
LDL-Cが高くても心筋梗塞を起こさない人も正常範囲内でも起こす人もいます。
動脈硬化に関してのLDL-Cの豊富なデータはありますが、実際に動脈硬化巣のplaquetoとして存在しているものはLDL-Cではありません。中性脂肪でもありません。
Lipid1.png

C)sdLDL-C(超悪玉コレステロール)

LDL-CがLPLなどにより更に小型化したもの。
これは各組織にあるLDL受容体との親和性がない為に、血中に長く停滞してしまいます。
その間に酸化作用を受けた後でマクロファージに貪食され血管内皮のplaqueになってしまいます。
sdLDL-Cは非常に大事な検査なのですが、未だに、一部の研究室レベルでしか測定できていません。
LDL-Cの大きさを間接的に示す検査としてアポリポ蛋白Bという項目があります。
アポリポ蛋白B(ApoB)90mg/dl未満が正常範囲です。
アポリポ蛋白の数値が大きい程LDLが小型化(悪玉化の目安)といわれています。しかしあまり多くの先生方は検査されていないのが現状でしょう。
私自身も殆ど日常的には測定していません。

Lipid2.png


D)RLP-C(レムナントコレステロール)

i)広義ののレムナント
TGリッチリポ蛋白がLPLで分解されて中性脂肪の量が減量したものをレムナントと総称します。
カイロミクロン→カイロミクロンレムナント
VLDL→VLDLレムナント

これらのレムナントの多くは肝臓表面にあるVLDL受容体により素早く肝臓に取り込まれて代謝されてしまいます。

ii)狭義のレムナント
肝臓ですぐに代謝されずに血液中に停滞し続ける為にマクロファージの餌食となり動脈硬化の大きな要因となるものです。
狭義のカイロミクロンレムナント及びVLDLレムナント とよばれます。
これら狭義のレムナント増加はコントロール不良の糖尿病、運動不足、肥満及び急激な体重増加などが要因となるようです。

RLP-C測定は三ヶ月に一度なら保険が効きます

RLP-C測定は三ヶ月に一度なら保険が効きます。
但し現行のRLP-C測定が狭義のレムナントを正確には評価出来ていないという専門家の意見もあります。
現時点ではTGで間接的にRLP-Cを評価していくといいと考えます。TGと同様食後変化しています。
食後の血液中の中性脂肪が異常にふえることを高脂血症と呼びます。
空腹時採血ではVLDLレムナントを評価し、この高値は病的意義は高いと考えます。
食後ではカイロミクロンレムナント値が上乗せされます。
食後採血での高値の評価は各症例に於いての原因を検索する必要があります。
註)RLP-Cが異常高値の場合には大型のレムナントコレステロールを見ている可能性もあり、それらのレムナントコレステロールは血管内皮にまで到達しない可能性があり、動脈硬化とは関係しない事も考えられます。解釈は慎重にしないといけません。
前日の飲酒を禁止しさらに空腹採血に徹する必要があると考えています。
アポ蛋白B48を空腹時採血すると食後の高中性脂肪の評価ができるとの意見もあります。 空腹採血で中性脂肪が正常範囲内でも、アポ蛋白B48が高値は要注意です。


註)最近non-HDL-Cという値がむしろLDL-Cよりも動脈硬化に関連するといわれ注目されています。
non-HDL-C=TC-HDL-Cで求めます。LDL-C値が空腹採血での評価に対して食後採血で求めます。 その為にNon-HDL-CはLDL-CのみでなくsdLDL-CやRLP-Cなどの影響及び食後の変化も反映するのではないかといわれています。
しかし現時点までにはLDL-C値の動脈硬化に関連するデータは世界中に豊富にあります。
今後はnon-HDL-Cのデータが積み重ねられることは想像に難くありません。

健康診断を受けた方はコレステロール関係の項目では是非以下の項目に注目してください。

TCを測定していないところがありますが、TC値は決して無視してはいけない検査です。

1)non-HDL-C170以上
2)TG150~200以上
3)HDL-C40以下
のいずれかが
数ヶ月続く様な人は放置しないで対応策を取ることをお勧めします。

肥満者
糖尿病
運動不足
急に、体重が増えてしまった方(3ヶ月で3~6kg以上とか)の方に該当する人が多いと思われます。
勿論、上記に当てはまらなくても上記のデータに異常のある方は医療機関で相談してください。何事も先手必勝。転ばぬ先の杖です。

これらの方は動脈硬化の要因である
RLP-CやsdLDLが高値であることが想定されます。
RLP-CはTGリッチリポ蛋白だからTG値が高い事は理解しやすいですが、
sdLDL中のTG含有量は少ないですが高TG血症ではsdLDL-Cが増えることが多いという現実があるようです。

対応策として

1)運動や蛋白摂取をきちんと指導して しっかりして筋肉をつける事が大変重要です。患者さんを啓蒙してまずは薬剤に頼らない試みが優先されるべきです。
2)炭水化物や脂肪やアルコールの過剰摂取(エタノール5g/日以上)を避ける。ただし魚などのオメガ3は別。
3)スタチン以外にゼチーア、フィブラート系、オメガ3のエパデール、ロトリガ
4) 糖尿病があればSGLT2阻害剤、チアゾリン系、DPP-4阻害剤も考える。

運動に関連しては

毎日の自宅での運動を1~2分からでも習慣つける。1~2分ならいつでも繰り返す事ができます。一万歩以上歩いたり、30分以上歩いたり運動する事などは多くの人には苦痛だと思います。
できる事からやることです。
トイレをした後に必ず1~2分足腰をゆっくり息を吐きながら踏ん張る動作。
日常生活の動作の中にレジスタンス運動を組み入れる。
気がついた時にゆっくり息を吐きながら1~2分お腹をへこまし続けるなど。
ロングブレスの歩きながらの応用。
各動作は1~2分程度からでよく、無理しない。疲れたらやめること。一度に根性で長い時間やり続けることはないと思います。例えば10~12分続けなくても、1~2分を1日のうちに10回行うといいでしょう。

治療開始した場合にはnon-HDLはこ150以下にコントロールします。
糖尿病のある方は130以下を目指します。
何故なら、心筋梗塞などの虚血性心疾患を起こしていなくても糖尿病があると言うだけで、虚血性心疾患の既往のある非糖尿病患者さんの二次予防の基準まで厳しくコントロールすべきであると言われているからです。ガイドラインには150以下となってますが、私は130以下を勧めています。虚血性心疾患の既往のある方は130以下をしっかりキープするようにアドバイスしています。

目標値

一回の検査で判定しないで何回かの採血でその人の平均を想定する必要があります。
採血時の食事や前日の飲酒量。日常生活の運動の変化で微妙にデータが変化します。
点でなく線での評価が大事です。

1)non-HDL-C150~130以下
2)TG 100~150以下(空腹、食後に拘らず)
3)HDL-C 40以上

参考)Lp(a)も動脈硬化に関連するとされてますが、臨床上頻度は高くなくここでは名前だけ挙げておきます。

LDLの基準値などに関しては、主治医や成書もしくはインターネットで詳しいことはお調べください。

LPL :リポ蛋白リパーゼ 脂肪細胞や筋肉などの毛細血管内皮細胞に存在
HTGL :肝性トリグリセリドリパーゼ

以下の検査の単位 mg/dLです。
LDL-C :悪玉コレステロール
sdLDL-C :超悪玉コレステロール
RLP-C :レムナントリポ蛋白コレステロール
HDL-C :善玉コレステロール
TG :中性脂肪
non-HDL-C :非善玉コレステロール

2017年11月12日

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