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2017年10月20日

健康寿命とは

健康寿命とは難しい言い方をすると日常的もしくは継続的な医療や介護に依存しないで、自分の心身で生命維持し、自立した生活ができる生存期間のことです。
この健康寿命を延ばして、ピンピンころり、が誰もが理想とするところでしょう。

不幸にも病気で倒れてしまって要介護状態になってしまうこともあるでしょう。しかし病気で倒れたわけではなく、単に加齢とともにだんだん気力や体力が低下してしまって、ついには要介護状態に陥ってしまうケースもかなりの数に上ります。
しかし、このことをできる限り予防しピンピンころりをめざす社会を築くためには社会全体で取り組む必要があります。高齢化社会に直面している日本でいかに健康寿命を延ばして行くかは喫緊の課題です。

高齢化社会において健康寿命に大きく影響する疾患としてここでは
1)サルコペニア
2)アルツハイマー型痴呆
3)骨粗鬆症
の三つをざっくりとその代表として取り上げます。

現状ではこれらの状態に対する医薬品が果たせる役割はかなり限定的です。
これから述べていくことの理解においてマイオカインという言葉を記憶しておいて下さい。

マイオカインとは

マイオカインとは、筋肉から分泌されるホルモンの総称です。多くの種類があり、糖尿病や動脈硬化それに認知症などにもいい影響があるとの動物実験での報告があるようです。運動して筋肉をしっかり刺激すると筋肉から体にいいとされるいろんな種類のホルモンことが出てくるようです。
人における上述の三つの状態の関係性はマイオカインをイメージすると理解しやすくなります。

長年臨床に携わっている開業医の立場から高齢化社会に対して今医療に何が望まれ、また一方で何が医療の限界であるか、そして現時点において具体的に何をすればいいかについて考えて見たいと思います。

高血圧、糖尿病、脂質異常、心筋梗塞、脳卒中、各種がん、先天性疾患、代謝疾患などなど、いまの日本の保険制度のもとにおいて治療されている疾病についての治療方法について述べることは本稿の趣旨ではありません。

1)サルコペニアについて

サルコペニアについて語るときは、フレイルという言葉の説明をしておいた方が理解しやすいと思います。

フレイルとは英語でFrailty虚弱のことです。
1)身体的フレイル
2)心理的/認知的フレイル
3)社会的フレイル
と分けられると思います。

1)身体的フレイルはサルコペニアともいわれます。
サルコ(筋肉)ペニア(減少)が語源です。このサルコペニアの中でも色んな分け方があります 。
A)原発性サルコペニア 加齢が主な原因
B)二次性サルコペニア 医療現場での治療が不可欠な疾患による筋力低下
 例えば 脳卒中や進行癌、極端な低栄養状態などなど。
ここで取り上げるサルコペニアは原発性つまり加齢に限った話と受け止めて下さい。
2)や3)の他のフレイルに関しては精神面や経済面などが複雑に絡みますので私には述べる資格も知識もありません。

ここからは原発性サルコペニアのことをサルコペニアとよびます。つまり高齢化社会では避けて通れない単に老化による筋力低下のことです。 これにいかに抵抗するかが大事なことです。極端な例かも知れませんが、スキーの三浦氏のように歳に負けないで頑張れる模範があることを励みにして下さい。

2)アルツハイマー型認知症

これ以外に認知症に関してレビー小体認知症、ピック病など細かな分類はありますが、多くの認知症は診断がつけられたとしてもその治療方法についてはそのほとんどが満足できていないのが実情ですので、ここでは細かく分類しないでアルツハイマー型認知症をとりあげます。当然開業医としては治療可能な認知症を見落とさない努力が求められます。
それについては後述します。

3)骨粗鬆症

1)原発性骨粗鬆症 加齢によるもの
2)二次性骨粗鬆症 各種疾患やその治療薬の副作用に起因するもの
という分類はありますが、治療方法はさほど変わりません。

アルツハイマー型認知症の早期発見の意義についての現状(物忘れ外来の意義)

物忘れ外来などで軽度認知機能障害(MCI)と診断されてからアルツハイマー病を予防するために色んな試みがなされています。

現時点での見解としては、ビタミンB群、葉酸、ビタミンC、イチョウの葉、βカロチンなど巷で色々言われ宣伝されていますが、いずれの投与も統計上効果なしと判断されています。
更には、現在治療として行われている降圧薬、糖尿病薬などの医薬品による各疾患の治療を施してもこと認知症予防効果に関してはいずれも認められなかったと報告されました。
つまり現在の医療では早期認知症の診断をつけたとしても薬だけではまだアルツハイマー型認知症発症予防はできない。という見解です。もちん自分に合っていて続けたいという健康食品があればそれを否定するものではありません。むしろそのような健康食品や新薬に期待している一人でもあります。
私は個人的には患者さんや家族の方が試してみたいという何か健康食品などがあれば自己責任において三ヶ月試してみてくださいとアドバイスしています。

その一方で、脳トレーニングにはやや効果があったようです。しかし最も効果があったものは運動であったという結果でした。それは私にとって意外でもありまた当たり前でもある結果でした。マイオカインがその役割を果たしたのでしょう。
運動に関しては今の所、有酸素運動がいいかレジスタンス運動がいいかは判断できないとの見解のようです。どちらでも自分のペースで行うことがいいでしょう。どうも運動し筋力を落とさない日頃の努力が年を重ねれば重ねるほど大事であることは確かな事のようです。

治療可能な認知症

治療可能な認知症としては
1)正常圧水頭症、
2)慢性硬膜下血腫、
3)脳腫瘍
4)甲状腺機能低下症
5)アルコール症
6)脱水
7)ビタミン欠乏症
8)うつ病や不眠、降圧薬など種々の薬による副作用
9)その他
が考えられます

開業医でも脳MRI検査機関とうまく連携できれば前3疾患については除外診断出来ます。うつ病や薬の副作用の心配がある際には専門機関を紹介するといいと思います。それ以外の原因については患者さんやその家族からの情報をきちんと取ることによって診断はつくと考えられます。

上記を除外できた認知症のほとんどのケースでは現在のところ投薬のみに頼る医療機関では治療効果は期待薄です。私はきちんとした筋力面のリハビリが行われる施設に一縷の希望を持っています。
脳トレやコミュニケーションの場も勿論必要だと思います。現状のリハビリ環境では一部の機関を除いて人手不足のせいかあまり効果が上がっていないように私は感じています。
国主導でしっかりとした質の良いリハビリのプロを多く雇える予算がつくことに期待しています。

骨粗鬆症に関して

骨粗鬆症治療には種々の薬があります。
ざっくりというと「骨の新生を促す」「骨が溶けるのを防ぐ」薬がいろいろ発売されています。しかし薬だけに頼っていては効果は半減です。患者さんにも協力してもらわなければ、薬の効果も半減です。

1)ぴょんぴょん体操 1~2分間両手を挙げながらジャンプを繰り返す
2)かかと落とし運動 リズミカルに両かかとを繰り返し床につける

過重負荷を患者さんに毎日行ってもらうことがとても大事なことです。
過重負荷については後述します。
筋力アップは骨粗鬆症にも影響があります。筋肉と骨はくっついていて相互関係がある事は誰もが容易に理解できることだと思います。患者さん自身も努力することが必要です。患者さんの中には病院の薬で何でもなんとかなると誤解されている方は多いと思います。その誤解を解いて具体的な協力方法を理解していただき患者さんにも協力してもらう事が必要です。化学の発展により特効薬ができる事は誰もが望むところでしょうが、それらは研究者に任せておくしかありません。

サルコペニアに対して

筋力アップするには
1)運動
2)栄養面
両面で考える必要があります。

介入の時期について
日本人では色々な報告から判断すると70歳を超えるあたりから筋力低下が進んでくるようです。
わたしは、サルコペニア健診と名付けて70歳から実施するといいと考えています。チェック項目についてはいろんな意見があろうかと思いますが煩雑化しない為に握力と歩行速度を中心にさらにはアンケート調査に基づいて筋力をスクリーニングすればいいと思います。
この健診で異常と判定された場合、骨粗鬆症やアルツハイマー型認知症の発生リスクも想定されるため、国を挙げての対応が望まれます。

オーラルフレイル

オーラルフレイルという言葉があります。口腔内サルコペニアなどともいわれます。
歯科領域の協力は欠かせません。口腔内の管理は種々の疾患予防には欠かせません。
ある程度硬いものが噛めることが基本です。しっかり歯科領域を管理しないと咀嚼力の低下や誤嚥に繋がり、ひいてはさらには深刻な病気にも繋がるということは火を見るより明らかです。

笛の普及について

トランペットのようなものなら、肺機能にもいいし呼吸筋や腹筋も鍛えられるということは容易に想像がつくと思いますが、多くの方に普及するという点でいうと現実的ではありません。

そのために私は
1)口腔内サルコペニア、
2)呼吸筋サルコペニア
と呼んで簡単な器具をうまく使って鍛えることを推奨しています。

それにはペンダント式の笛が良いと思っています。音の出ない笛をペンダントにすることにより身近に用意して事あるごとに吹く行為を繰り返し行うことがこれらの予防につながると思っています。高齢者の方に普及すると絶対いいと考えています。

加圧ベルト(下半身用)

高齢者はまず下半身を鍛えることを勧めます。若者は上半身の筋肉誇示に加圧ベルトを利用するようですが、簡易な下半身用の加圧ベルトのようなものがあるといいと考えます。

レジスタンス運動

1~2分ですむレジスタンス運動をおススメします。場所も何処でも構いません。

a)両足を大きく開いて腰をできるかぎり落とします。そこからゆっくり息を吐きながら約20秒かけて立ち上がります。これを3回で1セットとします。これを1~2セットおこなって下さい。
b)ウォリアーズのポーズも同様です。
c)トイレから出る度に同じくゆっくり息を吐きながら近くの壁を下半身に意識をおきながら腰をいれて20秒間おします。これも3回で1セットとします。

レジスタンス運動は場所や時間を選びません。

有酸素運動

時間があるときやリフレッシュには有酸素運動も勿論大事な運動です。レジスタンス運動や有酸素運動のどちらでも構いません。とにかく運動を習慣つけることが大事です。
アンクルウェイト スキーの三浦氏の話は有名です。
1)大股歩き
2)速足
ゆっくりのんびり歩くことは精神的にはいいでしょうが筋力維持となると?です。

上は自分でできる運動ですが、程度によってはまたは一人ではできない方にはその道のスペシャリストに委ねる必要があります。
ここには国を挙げて予算を取って欲しいと考えています。ボランテイアといえば聞こえはいいですがそこに甘えて経済的メリットを担保しないと続かないと思います。

栄養面

サルコペニア、アルツハイマー型認知症および骨粗鬆症に共通して言えることです。
以下にいくつかの栄養面での報告があるものをあげてみます。

ビタミンDの重要性。
ビタミンDについては骨粗鬆症、サルコペニアのみならずアルツハイマー型認知症との関連が言われています。これらの疾患においてはビタミンD濃度の低下が言われています。25(OH)D濃度つまり25-ヒドロキシビタミンD濃度については日本でやっと保険適応になったようです。海外ではかなり研究が進んでいます。

きちんとたんぱく質を取りましょう。
たんぱく質1.2~2g/kg/日はとるようにしましょう。
60kgのひとなら72~120g/日、カロリーなら288~480キロカロリー/日です。

ビーフジャーキー、マグロジャーキー、さきいか、小魚入りナッツ
などは蛋白が豊富でかつ歯ごたえも良くサルコペニア予防にはうってつけと思います。

アミノ酸分岐型アミノ酸で特にロイシンが必要です
ロイシンが筋たんぱく質合成シグナルに関わるそうです。

カルニチン

骨格筋におけるエネルギー産生に関わります。年齢とともに低下することが分かっています。これの一定量の補給はサルコペニアには有効という報告があります。しかし効果がある反面高価であることが問題です。一方でカルニチンが含まれている健康食品はありますが、その量は少しは含まれている程度のことがありますので気をつけて下さい。一般的に医薬品として発売されている薬品はその効果を人で確かめられているので保険適応になります。健康食品はその成分が入っていれば記載されます。人での確固たる効果については問われていません。健康食品がダメとはいいませんが自己責任で求め下さい。

漢方薬

高齢者の食欲不振には西洋薬も悪くありませんが、漢方薬をうまく使いこなすとすごく良いという印象をもっています。検査による数値では異常を認めないにもかかわらず、易疲労感や体力低下を訴える方にも漢方薬が効果を発揮することをよく経験します。

漢方の使い分け、六君子湯、補中益気湯、人参養栄湯、十全大補湯、八味地黄丸などそれ以外にもトライするといいものはいっぱいあります。

DHEAこれは日本では個人輸入するしかありません。効果のほどは個人が決めるしかありません。
クレアチンを投与する試みもあるようです。

メトグルコ

糖尿病のひとではメトグルコ服用者の方が筋力が保たれるといういい報告もあります。よほど腎機能が悪くない限り、つまりクレアチニンクレアランスが30以上なら少量でも使うと良いでしょう
栄養失調状態を放置しないことです。

糖原性アミノ酸

グリコーゲンが枯渇したときグルコースを維持するため に筋肉が壊れて出てくるものをいいます、行き過ぎの糖質制限には要注意です。

栄養と運動が重要不可欠

本人の努力ときちんとした栄養指導がこれからの課題です。だからこそいろんな分野の協力が必要なのです。

評価方法について

認知機能の改善の評価について
長谷川式など色々な評価法が言われています。しかし私は個人的には患者さんの家族や介護支援されている方の肌感覚での満足度の評価の方がわかりやすいと思っています。もしくは介護度の変化で評価する事が現実的であると思います。

筋力の評価について
あくまでも個人の変化で判断することをお勧めします。他人と比較するものではありません。
握力計による数値の変化、歩行スピードの改善

タニタやオムロンなどの体重計

タニタやオムロンなどの体重測定器で体重や筋肉量、骨量および脂肪量が簡易表示されます。

1)コストが安く多くの人が利用できる点
2)個人の評価はあくまでも個人の各項目のデータの変化率で見ることが一番自然です。
筋肉量や骨量の増加、脂肪量の減少が良いサインでしょう
筋力と筋肉量は厳密には異なりますが、個人での変化を見るのですから筋肉量の変化を見ればいいと考えます。

上記のような体重計を利用して自分独自のデータの推移を見るようにしてください。

註)一方大学などの研究機関や一部の検診センターではCTを利用して、数多くの動脈硬化のリスクの統計から内臓脂肪面積が100㎠以上を要注意としています。私はこの絶対値評価よりも個々人の体重や筋肉量などの変化率を治療の評価にしたいと思っています。

例えば、175cm55kgでずっといた人が、結婚を機に半年で60kgになって脂肪肝になったというような症例をたまに経験することがあります。175cm80kgで体型維持しており脂肪肝のない人のような例も少なからず経験します。
BMIで評価するとこの2症例は?ですよね。統計的に処理するということは、総論なのです。現場を見ている医者の端くれとしては個々人の結果である各論を優先しています。話は脱線しますが大病院のデータは総論が中心です。私は総論を参考にしますが、鵜呑みにはしません。何故なら目の前の患者さんは上記症例のように一人一人各論だからなのです。

CAVI

これは血管年齢の際の指標ですが、認知機能、骨格筋量との正の相関がありそうです。
主治医に相談して測定してもらって下さい。
半年に一回くらいの頻度で測定されることをお勧めします。

国によるみんなに行き渡るシステムづくりが急務

製薬会社は我々医師にとって貴重な情報や学会活動、研究面のサポートをしてくれます。個人的に私は東京にいることも手伝っていろんな勉強会での情報を得る機会に恵まれています。以前出張の形で地方勤務を長くした経験からその情報量の豊かさは何者にも変えがたいと思っています。でも当たり前のことですが製薬会社としてもきちんとした営利活動の一環での協力です。

国民全員に関わるサルコペニア、骨粗鬆症、アルツハイマー型認知症は医者だけの力では微々たる物です。国によるみんなに行き渡るシステムづくりが急務です。

繰り返しますが筋力低下いわゆるサルコペニアとアルツハイマー型認知症との関連についてはほぼ常識となってきています。


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