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2019年4月30日

糖尿病の治療について(要約)

1)自己インスリン(膵臓β細胞から分泌されるインスリン)が適切に分泌されている時は糖尿病にはなっていません。糖尿病治療において最優先する事は出来る限り早く自己インスリン分泌能を改善、回復する事です。自己インスリンは門脈を介してまず肝臓で働くという特徴があります。

2)境界型糖尿病の状態(食後過血糖の状態)を長く放置していると糖尿病と診断される前からすでに自己インスリン分泌能が低下し始めている事がわかってきています。

3)糖尿病と診断されていても食後過血糖をコントロールし続けると自己インスリン分泌能が改善していく事も分かっています。

4)多くのケースで見られる食後1時間前後に生じる食後過血糖(糖尿病コントロール不良群では食後2時間近くにまでずれることもままあります)を如何に抑えるかが糖尿病治療の根幹であるといっても過言ではありません。

5)食後過血糖を抑える為には薬剤治療中心ではなく、炭水化物量の見直し、食後すぐの簡易レジスタンス運動および食事にできる限り時間をかけるという点に対する患者さんの理解と協力が欠かせません。


食後過血糖に直接影響するのは蛋白質や脂肪ではなく炭水化物です

1)食品中の炭水化物が血糖値に与える影響をブドウ糖と比較して表した指標がGI値です。

2)今から食べようとする食品中の炭水化物量をブドウ糖換算量g(wtGL値)へ置き換えてみる習慣をつけておくと糖尿病治療に大いに役立つこと請け合いです。wtGLg=食品中の炭水化物量g×その食品のGI値%

3)食後過血糖を防ぐには一食分の合計をブドウ糖換算量にして50g以下を目安にしてください。間食するときは25g以内を目安にしてください。ただしインスリン治療中の方でインスリン治療の減量や中止を望む方は一食分のブドウ糖換算量を25g以内にされる事を勧めます。

4)GI値はネットで調べると簡単に調べられます。ただし、報告者によって値が異なりますので注意して下さい。しかしその食品の大まかな傾向は解りますので参考になります。

5)GL値及びwtGL値については表を参考にして下さい。

6)三食は気を付けていても意外とコンビニのオヤツや飲料水などが血糖値を悪くしていることをよく経験します。注意して下さい。果物類は表でもお分かりのように量さえ極端でなければwtGL値も多くなく、食後過血糖の心配はいらないと思われます。

7)インスリン注射は自己インスリンとは異なります。インスリン注射は筋肉や脂肪細胞に働きかけ血糖をコントロールしていますが糖尿病のコントロールの中心的役割を果たす肝臓では作用していません。肝臓に於いてインスリンがグルカゴンとバランスを取り合って血糖コントロールをしているという側面があります。当然インスリン注射に頼りすぎるとこの両者のバランスが崩れてしまいます。インスリン注射は血糖コントロールがうまくいかない時の臨時の治療と考えます。

8)簡易レジスタンス運動を家庭や仕事場などの日常生活に取り入れる工夫が大事です。
タイミングとしては食後過血糖を抑え、自己インスリン分泌を改善させるるというイメージを持って毎食後すぐに数分行う事が大事です。

9)炭水化物含有量の多い食品はゆっくり摂取する習慣をつけることが大事です。血糖値の急激な変動(血糖値スパイクとも言われることもあります)は血管を傷つけやすい事が分かっています。

10)血糖値に与える影響と肥満に対する影響は必ずしも同じではありません。血糖値を意識するならwtGL値を、体重増加が気になるなら炭水化物や脂肪のカロリーを意識する必要があります。

11)ご飯やパンなどの炭水化物を単独で食べるよりも、牛乳、たまごや納豆、チーズ、ハムなど蛋白質や脂肪を一緒に取った方が摂取カロリーは増えますが、むしろ食後血糖値は下がる傾向があるようです。食物繊維も勿論いいです。

12)糖尿病の方で、現在のHbA1cを薬を増やすことなく1割減らしたい方への提案。例えば、7から6.3へしたい場合はいつもの食事中の炭水化物量のみ1割減らすことを勧めます。

13)境界型糖尿病の段階からすでに動脈硬化が始まっているという事実が河盛教授主導の内頸動脈エコーで見事に証明されています。糖尿病治療において早期の段階から食後過血糖を意識してその是正に勤める姿勢が開業医には必要です。そのことが、自己インスリン分泌作用を改善しHbA1Cの改善につながっていきます。

14)残念ながら早期でない糖尿病患者さんも多くいることも事実です。しかし糖尿病治療は流動的であることも知っておく必要があります。1型糖尿病でない限りは例えインスリン治療が長年に渡った患者さんでも、その減量や離脱は決して無理ではありません。私は個人的にはHbA1Cが8以上の膠着状態が続くと糖毒性と判断してインスリン治療に踏み切っていますが、最近では、早期に食後過血糖を是正し自己インスリン分泌能を改善する目的ならHbA1C7程度からでもインスリン治療の介入もありかと考え始めてます。そのことによってインスリン治療から脱却できる可能性がある高くなると考えるからです。

15)糖尿病を改善して大事な栄養素であり、美味しい炭水化物をしっかりと食べられる身体をめざしましょう。決して極端な糖質制限を強いることには反対します。私は炭水化物制限論者ではなく適正炭水化物論者です。

糖尿病患者さんの血糖変動

症例数は多くありませんが、糖尿病患者さんの血糖変動について比較検討すると、
1)左図の75gブドウ糖負荷が毎食続くと仮定すると、血糖コントロール不良は明らかです。
2)右図のテストミールに使われている炭水化物をブドウ糖量換算(wtGL)すると約50g相当です。この50g相当の負荷における血糖変動はぎりぎり許容範囲と思われます。


DM:糖尿病 IGT:境界型糖尿病 NGT:正常

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図:ブドウ糖や中性脂肪の動向


炭水化物であるブドウ糖や中性脂肪からの遊離脂肪酸が運動エネルギーとして筋肉に取り込まれます。しかし血管内皮に存在するコレステロールは運動エネルギーにはなりません。
タンパク質は筋肉の材料となります。


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これらの運動やスロースクワットのような簡易レジスタンス運動は毎食後すぐ数分行ってください。

インスリンの代謝について

自己インスリンは内因性インスリン又は糖毒性下インスリンの事です。


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インスリン注射は肝臓には作用しません。
自己インスリンはまず門脈を介して肝臓で作用します。
両者とも筋肉や脂肪組織には作用します。

簡易レジスタンス運動

理想的な糖尿病の治療は質の良い内因性インスリンをいかに維持しながら利用するか、またはできる限り早く回復させるかが最重要課題です。
その為には少しからでも、軽くからでも運動を習慣づける患者さんの協力が不可欠です。
家庭内や職場などでいつでも出来る簡易レジスタンス運動を適宜繰り返すことで桃色筋肉をつけることです。


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40歳以上のことが多く、家族歴が関係していることが多い。
報告者や国にもよりますが約95%はこちらのタイプ。

GI値の求め方

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図:GI値の求め方


ブドウ糖50gを基準として求める報告が一般的です。
GI値は報告者によって異なりますので気をつけてください。
報告者が違っても各食品のイメージは変わりません。
GI値の単位は%です。炭水化物量gは表していません。
GI値が高いから血糖に悪影響するとの論調や低インスリンダイエットの理論にもGI値での説明がされてますが、肝心な炭水化物量を表していないGI値で血糖変動を論じることに違和感があります。

wtGL値の求め方

I)GL値表がある場合

1)私の推奨するGL値表からは、例えば白米ご飯を例にとると、1膳の半分ではwtGL値は41÷2gとなります。白米182gではwt GL値は50gとなります。表にあるカレーライスはここでの報告の一皿GL値83ですが、約半分でwtGL値40gになります。
2)GL値を食品100gで表示する報告であれば、実際に摂取する食品量gで比例計算して求めた数値が私の提案するwtGL値ということになります。


II)GL値表がない場合

1) 実際に自分の食べる食品中の炭水化物量gをカロリーブックなどで調べる習慣をつける事です。
2) 炭水化物量が分かればGI値をかけるとwtGL値が計算されます。GI値表はGL値よりも情報量が多いので、それを利用すると殆どのwtGL値は類推されると思います。


註)GI値表についてもGL値と同様に報告者によって若干の違いはありますので、注意してください。しかし報告者は違っていても大きな差はないようです。

桃色筋肉を付けましょう

理想的な糖尿病の治療は質の良い内因性インスリンをいかに維持しながら利用するか、またはできる限り早く回復させるかが最重要課題です。その為には少しからでも、軽くからでも運動を習慣づける患者さんの協力が不可欠です。家庭内や職場などでいつでも出来る簡易レジスタンス運動を適宜繰り返すことで桃色筋肉をつけることです。

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赤筋(遅筋)と白筋(速筋)が有名ですが、下図のような運動やスロースクワットなどの簡易レジスタンス運動で、桃色筋肉と呼ばれる筋肉がつくようになるという報告があります。時間と場所を選ばないまさに糖尿病の方にうってつけの運動がです。これは日課として行い、更に赤筋や白筋をつけたい方は筋トレやマラソンなど時間と場所が許す限り無理なく。

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血糖変動に影響するのはGL値ですが、体重増加に関してはカロリー数が関係してくると思われます。

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出展:「栄養成分チェックハンドブック」MSD株式会社

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出展:「食品80キロカロリーガイドブック」女子栄養大学出版部 2011(編集者 香川芳子)


これらの資料は一例ですが、カロリーや炭水化物量が記載されている本を一冊は手元において参考にしてください。

註)以下の表には肉や魚類や多くの脂肪や蛋白質色はほとんどGL値は問題とならないために省略しています。

GL値(食品一人前に含まれる炭水化物の表

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2019年4月29日

糖尿病治療のエッセンス

糖尿病ではない正常人でも血糖値は空腹と食後において80mg/dl~140mg/dlの範囲で時々刻々と推移しています。正常人では食後血糖のピークは30分あたりから1時間以内が殆どです。

自己インスリン(自分の膵臓β細胞から分泌されるインスリン)がきちんと正常に分泌されていれば糖尿病にはなりません。

食後過血糖とは食後約1時間後に生じる140mg/d1lを大幅に超える血糖変動を指しています

自己インスリン分泌能はまだ糖尿病の診断基準を満たさない段階の食後過血糖を繰り返す境界型糖尿病状態から既に低下し始めると言われています。

一方でたとえ糖尿病と診断されていても食後過血糖をコントロールし続けることにより自己インスリン分泌能が改善していくことも分かっています。

つまり食後約1時間後に生じる食後過血糖をしっかりとコントロールし続け、内因性インスリン分泌能を改善させる事が糖尿病治療の根幹になります。

食後過血糖を抑えるためには

1)一度に摂取する炭水化物量を控える
2)炭水化物を多く含む食品摂取にかける時間を出来る限り長くする
3)炭水化物単独よりも食物繊維はもとより蛋白質や脂肪を同時摂取する
4)食後直ぐの簡易レジスタンス運動を習慣ずける。
5)炭水化物量が多いおやつや飲料水の過剰摂取や常に何かを飲み食いする習慣を断つ。
6)糖尿病薬の利用
上記の組み合わせで自分にあった無理のない選択が望まれます。


註)食べようとする食品中の炭水化物量をブドウ糖換算量g(wtGL値)へ置き換えてみる習慣をつけておくことを勧めます。
wtGLg=食品中の炭水化物量g×食品のGI値%
GI値とは食品中の炭水化物が血糖値に与える影響を同じ量のブドウ糖と比較して表した指標の事です。GL値よりもその情報は多くネットで簡単に調べられます。


註)
炭水化物の中の果物に関して。
果物はGI値ひいてはGL値があまり高くないので、食後過血糖は生じにくいと考えられます。しかし摂り過ぎると肥満や脂肪肝に繋がっていきます。やがてインスリン抵抗性を生じ、適切な自己インスリン分泌能に支障を来してしまう危険性があります。

無症状の方が脳と心臓で倒れないための2大お勧め検査

1)頭部精密MRIおよびMRA検査

2)冠動脈CTまたは冠動脈MRI検査(coronary CTまたはcoronary MRI検査)


1)頭部精密MRIおよびMRA検査

頭部MRI検査と言っても種々の撮影条件や機械の精度によってさらに言えば読影者の力量によっても異なります。
頭部病変の細かな病変を見落とさないための撮影条件としては通常のT1強調、T2強調条件だけでは不十分で、T2スター、DWI法。FLAIR法など更には脳血管を評価するMRAの撮影条件も必要です。
頭部精密MRIの主な目的→早期の脳小血管病変を見逃さないことです。


脳小血管病変には
1)無症候性ラクナ脳梗塞
2)CBMs(脳微小出血)
3)白質病変(脳における虚血性変化)
などが挙げられます。

自覚症状が全くない時点でもこれらの所見が認められた場合には将来的な脳梗塞や脳出血のリスクのみならず、認知症のリスクでもあると言われており大変重要な所見です。かつ決してめずらしい所見ではありません。


参考)
頭部精密MRIおよびMRA検査でわかる病変として
1) 脳小血管病変
2) 脳動脈瘤
3) 脳血管狭窄
4) 脳動静脈奇形
5) モヤモヤ病
6) 脳腫瘍
などが無症状の方に見つかる可能性があります。2)〜6)は侵襲的処置が必要になります。

2)冠動脈CT又は冠動脈MRI検査

a)冠動脈CT又はMRI検査で異常がない場合
 更なる冠動脈カテーテル検査は殆ど必要がありません。


b)冠動脈CT又はMRI検査で異常なしの判定が困難な場合
 更なる冠動脈カテーテル検査の必要性を検討します。

【冠動脈CTまたはMRI後の経過観察チャート】

 冠動脈CT/MRI→異常なし→このまま経過観察
   ↓
 異常の疑い有り→心臓シンチ→異常なし(ひとまず安心)→経過観察
   ↓      心臓シンチ→虚血性変化あり→冠動脈カテーテル検査
 冠動脈カテーテル検査→異常なし→経過観察
 冠動脈カテーテル検査→狭窄あり→PCIや冠動脈手術              


冠動脈CT検査の被爆について
Dual energy CT, 逐次近似法など、撮像方法や画像処理の工夫により、被曝線量を低減しつつも良好な画像を得る試みが行われています。使用するCT scanner、撮像プロトコールによって被曝線量は大きく異なります。冠動脈MRI検査については、被曝しないという点は大きな魅力です。しかし機械の精度(例えば3テスラ以上)や撮影条件が厳しく検査する施設をCTよりも厳密に選ぶ必要があります。

参)腎機能が悪く造影剤使用を躊躇する場合は冠動脈石灰化スコアも有用です。


頭部MRIおよびMRA検査または冠動脈CTまたはMRI検査で異常が見られた時の対応について

1)脳小血管病変が見られた時
中でもCBMsが認められたら先ず血圧をしっかり治療する必要があります。
130mmHg以下を目標にします。CBMsが認められれば→先ずはきちんと降圧する必要があります。無症候性ラクナ梗塞又は白質病変→血圧のみならず、脂質、血糖管理、更には適正な運動や食事の管理、禁煙なども含め総合的な危険因子の管理を行う必要があります


2)冠動脈カテーテルで狭窄が判明した方でステント挿入などの処置(インターベンション)や冠動脈手術をされた方へ

これらの手技は大変重要な治療ですが、あくまでも対症的な処置であり根本治療ではない事を忘れてはいけません。インターベンション又は冠動脈手術後→再発予防を兼ね術前よりもさらに種々の厳しい管理が欠かせません。きちんとした運動や食事の管理、脂質異常、血圧管理、タバコなどリスクファクターの管理が必要です。今の医療現場を考えた時に縦割の色が濃いようです。緊急な治療は縦割り医療でいいと思います。しかし一次予防や再発予防に関しては総合内科医の横断的治療が必要だと考えます。


註)検査対象者として
1) 高血圧
2) 脂質異常
3) 糖尿病
4) 慢性腎臓病(CKD)
5) 喫煙者
6) アルコール過剰摂取(エタノール換算50g/日以上)
7) 家族に,脳梗塞や出血の既往もしくは虚血性心疾患の既往のある人などの複数リスクのある方にお勧めします。


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